上海のバーチャル家庭訪問に見るインサイトと商機
中国で「家」と言えば、慣習的に結婚する際に男性側(男性の家族)が自家用車とあわせて用意します。近年、上海や北京といった1級都市では住宅価格の上昇が特に激しく、住宅を手に入れるのには多額の費用が必要になりますが、それでもやはり結婚するとなると男性側は両親の力も借りながら住宅購入のために数十%の頭金を用意し、住宅ローンを組み、結婚生活のための住居を必死に用意しようとします。
では、このように購入される中国の住宅はどのようなもので、そこに暮らす人はどう生活しているのでしょうか。ここからは、弊社の保有する海外生活者データベース「Consumer Life Panorama」(※1)に登録されている住居内の360度パノラマ画像を用いながら、上海の生活者のプロファイリング分析をしてみましょう。
このデータベースには約500人の海外生活者が登録されており、そのうち中国の生活者が約100人分登録(うち上海の生活者は67人)されています。そのため、従来は定性的にしかできなかった画像を用いたプロファイリング分析を定量的に行うことも可能になっています。
まず、日本人が上海の家庭を訪問して気づくのが間取りの違いです。日本では玄関が一段上がった構造になっている上に室内が見えない作りになっていることがほとんどですが、中国では玄関に段差はなく、玄関を開けるとすぐ部屋が広がる造りとなっています(画像1)。

実際に弊社のデータベース内に登録されている上海の67人の住居においても日本式の玄関のある家庭はありません。
玄関の段差については、従来上海の生活者は部屋の中でも靴を履いて過ごしていたため、日本のように靴を脱ぐ場所としての玄関の役割が必要でなかったことが影響していると考えられます(ただし、都市化とともに現代型のマンションが普及したことで、上海の生活者も最近は玄関で靴を脱ぐようになっている)。
また、日本人はプライバシーを重視することもあってか、玄関を開けてすぐに室内が丸見えになることに大きな抵抗感があると思われます。一方で、上海の生活者は玄関から室内が見えないようにすることよりも、リビングや寝室の広さを優先して室内で快適に過ごすことにより関心があると考えられます。
さて、玄関直結のリビングに踏み入れると、日本では見慣れない冷蔵庫がリビングに置かれていることに気が付きます(画像2)。

上海の67人の住居を見ても、約60%の家庭ではリビング・ダイニングに冷蔵庫を設置していることが確認できます。
日本ではキッチンに冷蔵庫を設置することが一般的であり、また冷蔵庫を設置するためのスペースもキッチン内に確保されています。一方で、上海では家族が集まるソファやダイニングテーブルの近くに冷蔵庫を設置する家庭をしばしば見かけます。
中にはキッチンに置きたくてもスペースの関係でどうしても置けなかった家庭もあるかもしれませんが、家族が集まって時間を過ごすリビングやダイニングに置くことで、食事やくつろぐ際に食材や飲み物などが取り出しやすいからあえてリビングやダイニングに冷蔵庫を設置する家庭も見受けられます。何より、リビングやダイニングに冷蔵庫を設置するとなると、キッチンに設置する場合になかった生活者のニーズが潜在的に眠っている可能性もあります。
たとえば、リビングやダイニングに冷蔵庫を設置するとなると、家族だけでなく友人を自宅に招いた際にも、そのサイズから非常によく目に留まることになります。そのため、上海の冷蔵庫には見せるインテリアとしての役割が潜在的に眠っている可能性があります。
また、冷蔵庫の中を見てみると「スキンケア用品」「冷却シート」「医薬品」「サプリメント」といった食材以外のものを冷やしている家庭が10%程度いることが弊社のデータベースで確認できます。10%程度ではありますが、中国の人口を踏まえると見逃せない10%でもあります。そのため、冷蔵庫には食材を冷やす以上の価値が眠っている可能性もあります。
さらに、上海では、盒馬鮮生(フーマー)に代表されるように食材の即日宅配やミールキットの広がりも見られ、買いだめた食材を冷やすという冷蔵庫の従来の使い方に大きな変化を与えるかもしれません。
