広告を通じてブランドの思い・価値をどれだけ受け入れてもらえるか
MarkeZine編集部(以下、MZ):まず自己紹介とともに、メディアプランニングにおいて大切にしているお考え、理念をお聞かせください。
小堺:私は現在マーケティング&コミュニケーションズ本部の媒体統括部に所属しており、複数ブランドのメディアプランニングとPDCAによる改善を担当しています。当社ではブランド担当者がオンライン・オフラインの両方のメディアプランニングを行っており、私もプレミアムキャットフードの「ピュリナ ワン」などを含む複数ブランドについて包括的なメディア戦略の立案を進めています。
小堺:メディアプランニングを考えるうえで大切にしていることは、receptivity(受容性)です。具体的には「消費者が生活するなかで、私たちのメッセージに特に関心を示してくれる時・場所を見きわめ、それに基づいてメディアを選定していく」という考えです。KPIから組み立てるのではなく、消費者を第一に考え、その人たちと効果的にコミュニケーションができる場所はどこなのかをしっかり考え、コンタクトポイントを選定していきます。
たとえば「ピュリナ ワン」のようなペットフードであれば、「忙しい仕事中ではなく、ふと家にいるペットを思い出す、休み時間や帰宅途中であれば受容性は高まるし、メッセージも伝わりやすいのでは」というイメージを共有し、プランニングを進めています。
MZ:そのプランニングをもとに、具体的な施策の実行から成果の分析までを支援しているのが、ネスレのグローバルパートナーであるTeads Japanと電通デジタルなのですね。それぞれ自己紹介をお願いいたします。
川口:Teadsの川口です。弊社はアウトストリーム配信プラットフォームとして、クリエイティブソリューションやAIによる配信最適化機能、DMP/データを活用した広告展開等を提供させて頂いております。
なかでもネスレ様にはグローバルパートナーとして、日本オフィスだけでなくグローバルチームも合わせ、様々なご提案をさせていただいています。
山田:電通デジタルの山田です。小堺様からお話があったように、ネスレ様は、消費者のモーメントを重視した広告戦略と、ブランドを守るためのアドベリフィケーションを重視されており、当社はその考えに基づいた広告戦略策定のお手伝いをしております。
ペットフードブランド「ピュリナ ワン」プロモーションの狙い
MZ:ここからは「受容性」を第一に考えた広告戦略の事例として、「ピュリナ ワン」で実施されたプロモーションについてお伺いしていきます。まず今回のプロモーションの狙いを教えていただけますか?
小堺:「ピュリナ ワン」は、猫の健康を第一に考えたプレミアムキャットフードブランドで、ピュリナのペット専門栄養士が提唱している「ペットの健康に必要な<健康6要素>」を満たすフードとなっています。
小堺:これら6つの健康要素を満たすことで、便の状態も毛艶も良い、見た目ですぐに違いがわかるように猫の健康寿命をサポートします。
また、猫の健康のためにはフードだけではなく、その与え方もポイントになります。特に猫は水分不足になりやすいので、「ピュリナ ワン」では「愛猫の健康を守るのは、1日にコップ1杯程度の水分摂取です」ということを啓蒙しており、自然に水分が摂れるように、1日1袋のウェットフードとドライフードを組み合わせた「ミックスフィーディング」を推奨しています。
しかしキャットオーナーの方々のなかで、ミックスフィーディングという食事スタイルがまだ浸透していないという課題がありました。この課題を効果的に訴求し、最終的に「ピュリナ ワン」の売上につなげていきたいという思いがあり、電通デジタル様と相談しながら、Teads Japan様のワークショップ「Teads Studio L’Atelier」に参加することになりました。
ブランド価値を広告配信戦略、クリエイティブに落とし込む
MZ:「Teads L’Atelier(ラトリエ)」(以下、L’Atelier)というのはどのようなプログラムですか?
川口:L’Atelierはブランドが伝えたいメッセージに合わせ、適したクリエイティブを広告戦略から一緒に考えていくワークショップです。
今回は、小堺様の話にあった受容性という軸に、どういうコンタクトポイントでどのようなクリエイティブであれば、ブランドのメッセージ、ユニーク・セリング・プロポジション(USP)が届くのかを、多様な視点で考えていきました。
川口:具体的には「どのような表現をすれば、キャットオーナーが指を止めて自分の意思に基づき能動的に広告を見るか」という点からアイデアを出し、広告効果を上げる表現を考えました。
そしてCookieターゲティング、またはCookielessターゲティングで顕在ニーズを持つキャットオーナーに広告を配信し、愛らしい猫の素材を使って情緒的な部分でアプローチするクリエイティブを作れば、広告効果や態度変容の効率が上がるのではないかという仮説を出し、10本以上のバリエーションを作りました。最終的に採択されたのは4つです。
1つは「ミックスフィーディング」や「猫の健康を守るのに、1日にコップ一杯程度の水分が必要」といったファンクション面を中心に訴求する広告です。これをディスプレイと動画で2種類作りました。ディスプレイでもグラフィックでちょっとした動きを付け、キャットオーナーのアイキャッチとなり、指を止めたうえで、機能訴求のコピーを視認してもらうことを目的としています。
もう1つは、かわいい猫の動きを見せ、エモーショナルに訴求する広告です。これもディスプレイと動画で2種類作りました。この広告では、「あ、かわいい」をフックに広告に意識を向けてもらいます。視聴を完了すると、最後に最も届けたいメッセージである「愛猫を守る水分摂取にミックスフィーディング」というコピーが出てきます。視聴完了者のLP送客を含めて、サードファネルに向けた詳細情報の訴求へと施策は移行していくことになります。
Cookieターゲティングからの脱却も視野に
MZ:先ほど、CookieターゲティングとCookielessターゲティングの両方で配信するというお話を伺いましたが、今回のプロモーションに関するコミュニケーション戦略全体についても教えてください。
川口:2023年からChromeのサードパーティーCookieが廃止されるため、以前よりネスレ様からCookieless対策についてご相談を受けていました。Teadsプラットフォームでは、コンテンツメディアの記事面に広告を配信しているのですが、500以上のセグメントを4つの階層で分類した記事内容をAIが解析し、広告に適した記事に配信を行う「Advanced Contextual Targeting(アドバンスド・コンテクスチュアル・ターゲティング)」というソリューションがあります。
今回の「ピュリナ ワン」のプロモーションでは、キャットオーナーやペット、飼育、ペットの健康を守るという文脈を広く取る形でコンテクスチュアル・ターゲティングを含めて展開しました。
山田:今回のコンテクスチュアル・ターゲティングは、Cookieに頼ってターゲットを特定して配信する手法が時流に合わなくなるなか、「消費者のモーメントを捉え、その瞬間に記事を見ている人をターゲティングする」という点が、ネスレ様が重視している広告配信のコンセプトと合うと考えて提案し、ご了承いただきました。
また、ネスレ様はブランドセーフティについても積極的に取り組まれていますが、「安全な配信面」というところを最大限突き詰めていくと、配信先が縮小傾向になるという課題もあります。そこでコミュニケーションの新たな機会として、ページの文脈(=コンテキスト)に沿った「適切な配信面」を確実に捉え、ユーザーのモーメント(=ライトタイミング)にマッチした広告を配信することで、意図する消費者の方と良好な関係が構築できるという仮説を持ち、コンテクスチュアル・ターゲティングを選んだという経緯があります。
小堺:そうですね。まさしくネスレの基本方針と合致するアプローチだと感じました。
ディスプレイ広告の視認性は233%増、高い態度変容も
MZ:今回のクリエイティブ、そして配信の成果について教えてください。
山田:プロモーションは2021年9月3日から23日まで実施しました。今回のプロモーションの狙いは、意図するユーザーのモーメントを捉えるためにコンテクスチュアル・ターゲティングを実施しつつ、広告を見ていただいたのちに下のファネルへ誘導するためLPに送客して、そのLPの内容をしっかり理解いただき、態度変容を醸成していくことです。そこで、(1)広告のビューアビリティ、(2)LPへの送客、(3)態度変容の3つで成果を確認しました。
(1)でいうと、ディスプレイ広告では、過去実施した別メディアと比較して233%という高いビューアビリティを達成できました。動画広告は、これまでTeads様が制作したクリエイティブをベンチマークとし、今回のL’Atelierのクリエイティブと比較したところ、後者のほうが144%も高い結果が出ました。結論として、Teadsは記事中の広告ビューアビリティが高く、今回のL’Atelierで実施したように、よりリッチな表現で作り込むことで、さらに高いビューアビリティが得られることがわかりました。
山田:(2)のLPへの送客も当初予定していた送客効果より121%高い結果になりました。興味深い点は、ディスプレイの瞬間のモーメントが効いて高いCTRをもたらしたことです。猫が少し動くアクションがユーザーの気を惹き、興味を持ってもらって、広告経由で「ピュリナ ワン」のLPからそのブランドメッセージを読んでもらうことになり、これもL’Atelierのクリエイティブが効いていることがわかります。
最後の(3)ですが、態度変容調査を行ったところ、今回L’Atelierで制作したクリエイティブにおいて、ディスプレイ広告のほうが動画より高いリフトアップが得られたことがわかりました。効果的なクリエイティブを通じ、LP経由でブランドを理解してもらう点では、ディスプレイのほうが効率的だったという結果でした。
川口:ありがとうございます。1点補足すると、購買意向リフトアップという意味では、ディスプレイよりも動画広告のほうが高かったんです。とはいえ、ファネルごとのマーケティングで考えると、ブランド理解を効果的に上げるインタラクティブなディスプレイや、購買意欲を上げる動画アプローチなど、様々な選択肢と組み合わせがあります。ターゲティングや広告接触する際のモーメント、視認性の高いリーチ効率といった観点もあり、それら踏まえた上で成功法則を見定め、売上に繋げるためのメディア戦略を練る必要があると思います。
「どのモーメントで」「どんな人に」を考えた戦略が大事
MZ:小堺様は、今回のプロモーションの成果を受けて、どのような気付きがありましたか?
小堺:まずL’Atelierのクリエイティブの工夫、そしてCookielessのコンテクスチュアル・ターゲティングの2つがうまく組み合わさって、最大限の効果を得られたと感じています。
クリエイティブに関する気付きでいうと、私たちはプランニング時に、動画/静止画という括りで考えることが多いのですが、これはあまり意味がないのではないかと思いました。実際、消費者からすると、見ている広告が動画なのかディスプレイなのかは関係がないわけです。それより「どういうクリエイティブであれば反応してくれるのか」「メッセージが伝わるのか」という観点でクリエイティブ開発を進めることが大切だと感じました。L’Atelierでクリエイティブについてしっかりサポートいただいた点に感謝しています。
もう1つのターゲティングですが、やはりコンテクスチュアル・ターゲティングがうまくワークしたことは大きな発見でした。このターゲティング手法はCookieの代替手段ではなく、本来メディアプランにおいて当然考えるべき部分だということを再認識しました。テレビや雑誌などトラディショナルメディアの広告戦略では、見てもらいたい人たちに届けるために、広告をどの面に出すか考え抜いて出稿することが当たり前です。一方でデジタル広告は、個人にターゲティングすることができてしまうが故に、広告の配信面を軽視する傾向があるのではないでしょうか。
今回のコンテクスチュアル・ターゲティングの結果からも、受容性を重視した広告戦略展開の有用性も証明できました。今後、「ピュリナ ワン」ではもちろんですが、当社の他ブランドでも横展開していきたいと思います。
川口:Cookielessということであれば、Teadsには他にも様々な選択肢があるので、ネスレ様にはその効果をさらに実感していただきたいと考えています。
特に、CookieベースのターゲティングをCookielessのオーディエンスデータに即時変換できるソリューション「Cookieless Translator」というものが弊社の最新機能にございます。これにより、Cookieを使わない、消費者のモーメントを捉えたアプローチをクリエイティブと掛け合わせてご提供が可能です。
今回海外のクリエイティブチームも含め、L’Atelierを実施しましたが、事前に頂いたブランド・ブリーフィングや、キャンペーン戦略の骨子の段階から携わらせて頂けたことで、ご提案できる幅が広がったと実感しています。
今後もブランドの、適切なメッセージングのご支援ができればと思います。
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