「モノ販売」から「コト販売」への転換
MarkeZine編集部(以下、MZ):ハーモは2020年にMAツールとしてHubSpotを導入し、Webマーケティングを開始されたそうですね。まず、導入に至った背景を伺えますか?
林:ハーモは、プラスチック射出成形機の成形品取出しロボットおよび周辺合理化機器の総合メーカーです。これまでの当社の営業活動は、射出形成機を販売するメーカーや商社からの紹介に依存している形でした。
しかしリーマンショックでマーケットが縮小、徐々に新規案件数の伸び悩みを感じるようになりました。こうした状況下において、従来と同じような営業スタイルを続けていては生き残ることができないと考え、自社営業の教育に着手することにしたのです。トータルで約7年かけ「モノではなくコトを売る」という考え方で提案型の営業スタイルに変革していきました。
河口:その間、我々営業推進部も学びの連続でした。カタログ制作、展示会出展をメインに行っていましたが、「モノからコトへ」を強く意識して、製品の強みではなくお客様目線で、その課題感に響くような打ち出し方に変えるようにしたのです。営業に良い見込み客を提供するために「人材不足の解決」「生産効率の向上」など、“お客様の困りごと”を切り口に紙のDMを送ったりもしました。
しかし紙のDMだと開封率やお客様の反応がわかりません。そのため営業担当者もフォロー電話のモチベーションを保つのが難しく、施策としての効果検証ができずにいました。そして昨年、コロナ禍で展示会もバーチャル開催となり、ますますお客様の反応を感じづらい状況になって、Webマーケティングの必要性を痛感しました。こうした背景からマーケティングオートメーション(以下、MA)導入へと踏み切ったのです。
パートナー企業JBN、そしてHubSpotとの出会い
MZ:MAの中でなぜHubSpotを選ばれたのでしょうか?
河口:ツールについては、営業育成の期間、さまざまなセミナーに積極的に参加していた弊社の横山が、「Webマーケティングに本腰を入れる際には、JBNさんに頼みたい!」と熱量高くずっと言っていて。今回JBNさんにWebマーケティングについて改めて相談し、HubSpotを紹介していただいたのがきっかけです。
横山:私とJBNさんとのご縁は、2018年にJBNさんが定期開催されているセミナーに参加したのがはじまりです。そのときの内容があまりにも私たちの課題とぴったりで、その後も継続的に色々とご相談をさせて頂いておりました。弊社側で具体的な取り組みを進めるタイミングに至らない中でも、いつも真摯に相談に乗ってくださって、JBNさんなら私たちが抱えている課題を解決できると確信していました。
そして昨年、いよいよ当社でもWebマーケティングに本腰を入れる方向になり、念願が叶ってJBNさんにサポートを依頼できることに。嬉しかったですね。MAツールについては、私自身も情報収集する中で他の製品を見たことがありましたが、HubSpotは特にUIがとっつきやすくて使えそうだなという印象でした。JBNさんが推奨するのであれば、と信じてHubSpot導入を決めました。
MZ:3年越しのプロジェクトだったのですね! ではJBNさんから、今回のお取り組みにおける役割を教えていただけますか?
稲田:JBNは、長野に拠点を置くWeb制作会社です。当社ではユーザーの社会的役割を言語化することを原動力として、ユーザーファーストのコンテンツ制作を大切にしてきました。私たちがHubSpotを推奨するのは、ツールとして優れているというだけでなく、企業としてのHubSpotが掲げる「インバウンド」という思想に強く共感しているからです。現在はHubSpotのゴールドパートナーとして、HubSpotの導入・活用支援を含めて、成果の出るBtoBマーケティングの実践をサポートしています。
今回の取り組みは、まず横山さんからの3年越しの期待を裏切れないな、というのが第一にありました。そのため、「成果を出せる環境を作らねば」というプレッシャーがいつも以上にかかりました。成果を出すためには、できることを積み上げていく設計が必要です。
Webマーケティングの基本は「活動」であり、その活動には社内で波紋のように広がり他部門の人を動かす力が求められます。他者の行動量を増やすためには言葉の使用量を増やす必要があるので、マーケティング担当者の方自身がしっくりくる言葉で理解していることが大切です。なぜなら、マーケティング担当者が社内の別部署の方に説得力をもって説明できないと意味がないからです。そのため、Webマーケティングについてご説明する際には、専門用語を使わないことを意識していました。
河口:それはすごく感じていました。私を含め、社内の人間はMAを「難しいもの」だと思っていたのですが、JBNさんが専門用語を使わずに話をしてくれるので、受け入れられましたし、議論もしやすかったです。
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HubSpotを導入し営業活動に特化したマーケティングサイトを用意
MZ:JBNでは、ハーモさんの課題をどのようにして解決していかれたのですか?
阿部:まず、営業部の主だった方々に「営業の型」をヒアリングさせていただきました。すると、ドアノック製品としては「粒断機」が最適だとすでに社内で分析済みであることがわかりました。理由としては、(1)独自性、(2)コストパフォーマンス、(3)お客様のメリットが明快(原価率を下げ、リサイクル率を上げる)という3つがあります。
そこで、コーポレートサイトとは別に、独立させたマーケティングサイトをHubSpotで新しく作り直すことにしました。お客様との接点を作るとともに、ドアノック商材をきっかけとして最終的に取り出しロボットの販売へつなげるという戦略を実現するためのマーケティングサイトです。
稲田:お客様が困っている時に解決策を求めてサイトに来てくれることを目指し、業種ごとに課題を分解したり、営業エリアごとの得意領域を意識しながらコンテンツ作りを行いました。メーカーや商社からの紹介がメインで、「エンドユーザーとのタッチポイントがないこと」が今の営業課題だとヒアリングから分かりましたので、コンテンツマーケティングとの相性はいいと判断しました。そしてお客様が一番相談しやすい「粒断機」をドアノック商品として置き、サンプルカットの申し込みをCTAとしてリードを獲得することに徹したのです。
さらにお客様との接点を増やすため、ハーモさんには「毎月1回、必ず“お客様の課題解決に役立つ”Webセミナーを開催する」ことを、約束事としてお願いしました。これは本当に大変なことだったと思いますが、ハーモさんは昨年から一度も欠かすことなく実施してくださいました。Webセミナーを行ったあとは、その内容をダウンロード資料として使うといった流れもできています。
おかげで、公開1年にも関わらずダウンロード資料のライブラリはとても充実しています。こういったストック型の取り組みはハーモ様の社風やリソースと相性がいいということが、この1年の運用で分かりました。Web活用において、会社ごとの適性を見つけるのはとても大切だと思っています。
阿部:サイトで成果を出すにはお客様側の熱意が重要です。ハーモさんは毎回真摯に情報を共有してくださいましたし、サイトの軸やゴールが明確でした。コンテンツは横山さんが作成されたリストをベースにして、私たちはWeb的な文脈でキーワードや構成、打ち出し方を一緒に考えました。そして獲得した見込み客を有効活用するためにHubSpotにリストをインポートし、毎月開催されるWebセミナーをメールで周知し、営業活動を活発化しました。
MZ:コンテンツの制作からメールの配信まですべて「HubSpot」を活用しているのですね。ちなみに、JBNさんから見たHubSpotの強みはどんなところですか?
稲田:制作会社視点のHubSpotの強みは、CRMとCMSが表裏一体であることですね。使い勝手が良く非常に素晴らしいと思っています。特にHubSpotのメール制作システムはかなり優れているのではないでしょうか。
阿部:エンジニアも何か困った時に気軽に聞ける関係性があり、必要な時はチャットや電話で質問してナレッジを得ていますので、何かあってもスピーディーに解決できています。HubSpotさんとは定例ミーティングで両社スタッフの意見交換もしており、サポート体制に満足しています。
営業の“無関心”に苦戦。どう協力を得ていったか?
MZ:導入から活用までで苦戦されたことはありますか?
河口:JBNさんご協力のもと非常に良いサイトができ、HubSpotでお客様の反応もわかるようになったことで、私たちは大喜びでした。ところが、このとき社内の営業所長たちがほとんど無反応だったのです。営業所長たちは長年、商社からの紹介で仕事をしてきていましたし、紙のDMで成果が出なかったこともあり「そんなもので顧客が獲得できるわけがない」という空気感が伝わってきましたね。
横山:そこで、JBNさんにもご協力いただきながら、Webから見込み客を創出する取り組み内容やHubSpotの説明を熱心に行いました。私自身、全国各エリアの営業責任者が集まる会議に出席し、都度活動の内容やその成果の共有を行いました。
最初は「ページビューって何?」という状態だったのですが、Webからの受注など成果が見えるにつれ、好意的に受け取ってもらえるようになっていきました。営業本部長である林が自らHubSpot上で案件フォローを割り振りするなど、定着を促進するための活動をしてくれたのも、効いたのではないかと思っています。
河口:もうひとつは、毎月実施するWebセミナーの活用です。2ヵ月に1度は営業担当者とコラボしています。全体案内は横山から送信するのですが、営業担当者がリストアップした顧客に必ず自身で個別に声をかけてもらっています。お客様のためになるので、勧めるほうも熱心に営業できます。お客様の悩みにいろいろとアプローチができるので、製品から入るよりやりやすいと思います。
稲田:営業部に協力してもらうと、集客が2段階になる効果もあります。営業の方から「御社の課題解決につながります」とセミナーを案内すると、会社によっては現場担当者、品質管理者、工場責任者などがみんなで聞いてくださる流れも出てきています。
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1年間で新規見込み客が約3倍に、受注にも貢献
MZ:HubSpot導入によりどのような成果が現れましたか?
横山:数値的な導入成果としては、まずドアノック製品として貸し出しをゴールに置いていた粒断機のデモ機が、導入初年度で10台出ています。また資料ダウンロード数も200本を超えており、Webから生まれた新規見込み客は今までのコーポレートサイトへの年間の問い合わせと比較して約3倍にもなっています。
また新規見込み客の創出だけではなく、既に受注にもつながっています。2020年度にはWebセミナーをきっかけに約1,000万円の粒断機をご購入いただき、そのほかの流入も含め1年間で3,000万円ほどの売上がありました。
河口:これは全体売上の約2~2.5%で、まだまだ商社からの紹介が大きな比率をしめています。しかし、Webを使ってのアプローチ導入初年度において、この数字は画期的なものです。
また継続する中で気づいたことですが、私たちは毎回マーケティングメールを会社名ではなく横山の名前で送付しています。すると次第に「横山さん、今回のWebセミナーは出席できません」などと返信が来るようになりました。実在の人物からのメールで、親しみがあるのかもしれませんね。前述の1,000万円の粒断機をご購入いただいたお客様、創立者が業界では非常に名の知られた方なのですが、先日開催された展示会ではこの方が横山に会うためにブースへ足を運んでくださいました。
稲田:オンライン上でのコミュニケーションを1年間続けていると、オフラインでの価値が高まるのですね。展示会で「あの横山さんに会えるんだ」という感じで。お客様との「接点」をオフラインとオンラインとでとても有効に使われているのではないでしょうか。
新規顧客獲得率35%、売上3億円の創出を目指す
MZ:最後に今後のHubSpot活用の展望をお聞かせください。
林:国内営業の場合、当社の顧客として見込める会社は1,000~1,200社です。中期的な目標として、次の3年をめどにそのうちの1割である100~120社をHubSpotから創出する考えで方針を立てています。今後は市場をセグメントしてターゲットを明確にし、ターゲットの皆さんが欲するものを提供する必要があります。毎月の資料ダウンロードや問い合わせについては、1年目で30~40件、2年目は60~80件、3年目で120~160件が目標。現在は年間228件で月にすると20弱なので、不可能ではないと思います。それを達成できれば2.5億~3億円の受注額を目指せます。
その中でも特に期待するのは新規顧客の割合です。現在、年間で獲得できる新規顧客は約15%。これには休眠顧客も含まれるので、実際はもっと少ないです。HubSpotの導入でそこを25~35%にできたら、その効果は絶大です。
また、HubSpotを通じてお客様のニーズを収集し、開発へフィードバックすることで、新製品の製作に活かす。そんなことにも活用できたらいいなと思います。
稲田:私は、Webマーケティングには3つのステップが必要だと思っています。1つ目が活動の定着、2つ目が精度の向上、3つ目が成果の向上です。そして最終的な目標は売上の獲得です。ハーモさんは、それを理解されていて、初年度のこの1年は活動の定着を本当にきちんと行ってくださいました。次年度は精度の向上です。セグメントをきちんとしてターゲットを設定し、それぞれのニーズに合った活動をしていきます。目標数値のためにやれることを全部やったあと、3年目の成果を私自身も楽しみにしています。
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