市場の成熟とアプリ規制でアプローチが変わった
MZ:今、ゲームアプリ業界にはどのような課題があると思われますか。
道下:我々がモンストを出した8年ほど前は、市場がどんどん伸びている状態だったので、タイトル数が増えても売上高は伸びていきました。今は市場が成熟し、大きな“生け簀”の中で各社がユーザーを奪い合う構造になってきているので、成長率は鈍化しています。
道下:また、市場が成熟するとユーザーの目も肥えてくるので「このゲームアプリは自分の時間を使うに値するのかどうか」をシビアに見定められますね。ユーザーへ明確なベネフィットを提示するためには、ドーンと派手な広告を打つだけでは難しい。セグメントを緻密に切ってマーケティングしていくことが、これまで以上に重要となってきました。
課題はありますが、マーケターにとってはやりがいを感じるフェーズでもあるとも感じています。
MZ:道下さんは組織を統括するお立場でもありますが、組織として抱えている課題はありますか?
道下:モンストはこれまで様々な施策をやってきました。そのため、特定の領域に高い専門性を持つマーケティング人材は増えています。一方で組織が大きいため、インテグラル(全体的)なマーケティング戦略を描き、実行・推進できる人材を育成する重要性も感じています。個別最適と全体最適のバランスを取ることで、次の成長へとつなげていきたいです。
MZ:目黒さんはいかがでしょうか?
目黒:iOS14.5の影響でIDFAが取得できなくなっていることもあり、プロダクトをより磨き上げる必要性を感じています。広告を活用して離脱したユーザーを呼び戻すよりも、アプリ自体を良くして少しでも離脱を防ぐようなマーケティング施策を考えていかなければならなくなりました。
弊社はこの2年間でプロダクトの基盤を変えず、出稿と収益化というマーケティングの力で大きくなってきました。しかし出稿とマネタイズとCS、それぞれの部署で最適化が進むと、相関が取れずにまとまらなくなってしまいます。道下さんもおっしゃっていたように、個別最適化も大事ですが、整合性を取ることが大切ですね。
「ユーザーの声=唯一解」ではない
MZ:そうした業界の課題を踏まえて、ゲームアプリのマーケターに求められる資質は何だと思いますか。
目黒:データだけを見るのではなく、ユーザーと向き合って本質を捉えることが大事だと考えています。
たとえば、パズルde懸賞にはパズルを解くための「ヒント機能」があるのですが、弊社ではこの機能の利用率の低さに疑問を持っていました。そこでユーザーインタビューを行ったところ「ヒント機能を知ってはいるけど、パズルを自力で解くことに達成感を覚えるので、あえて使っていない」という意見が大半を占めました。データだけを見て「改善が必要だ」と判断することは、ユーザーとのギャップを生んでしまうと実感しました。
MZ:道下さんもユーザーインタビューをされているのでしょうか?
道下:定期的に行っています。ただ、ユーザー本人も気づいていないインサイトがあるはずなので、マーケターは「ユーザーの声=唯一解」だと思わず、バランス感覚を持ちながらインタビューにあたるべきだと思います。
MZ:ゲームアプリのマーケターを目指す上で、備えておくと良い資質があれば教えてください。
道下:ゲーム会社ではマーケティングと開発チームが分断しがちなので、マーケターは開発チームだけでは届きにくい、市場の競争環境やユーザーニーズの変化といった知見を積極的にフィードバックできると良好な体制を築けると思います。
たとえば、他社のゲームをプレイして市場概況を掴んだり、自社のゲームを客観的に評価したり。そういうことに楽しんで取り組める方はゲームアプリのマーケターに向いているのではないでしょうか。
目黒:他社のゲームをプレイすることは、とても参考になりますよね。私はゲームだけでなく、エンターテインメント全般に興味を持っている方が向いているのかなと思います。