プリウスやヒートテックも。SNS時代こそ重要度が増す「サブカテゴリー戦略」
コトラー氏の長年の友人であり、2019年のWMS東京の休憩時間には富裕層への課税の方法について同氏と侃々諤々と議論していたのは、ブランディング論の大家、米国のデービッド・アーカー氏。日本におけるビールのシェア争いを30年分さかのぼって研究し、さまざまな市場での検証を通じて導いたのが、有名なサブカテゴリー理論だ(参考記事)。それは、企業を勝利に導く唯一の方法とは、戦況をひっくり返すことができるサブカテゴリーを作り、新たな必需品を生み出すことである、というもの。
今年は「破壊的イノベーションにおけるブランディングの役割」と題し、自身の近著、『Owning Game-Changing Subcategories: Uncommon Growth in the Digital Age』(参考記事)を紹介。それによると、サブカテゴリーを打ち立てるのに必要な破壊的なイノベーションを形にするお手本的なブランド「Exemplar Brand(イグザンプラーブランド)」を作り、ソーシャルメディアによる加速的で熱量の高いコミュニケーションによって「Signature Story(シグニチャーストーリー)」、つまり強い影響力を持つ物語を伝えることで、市場を拡大できるという。

デービッド・アーカー(David Aaker)氏
実際のサブカテゴリー戦略事例として、日本ブランドからは、1997年の発売より世界でハイブリッドカーを象徴するトヨタのプリウス、また生地に呼吸や温度調節という価値を持たせたユニクロのヒートテック、エアリズムなどを紹介。ブランドによる継続的な破壊的イノベーションが生み出す圧倒的な差異化の力を強調した。
日本発のコンテンツも多かった、2021年のeWMS
今年のeWMSでは、日本企業や日本人による発信が数多くみられた。ここからはアーカー氏の“サブカテゴリー”のアイデアに則りながら、ネスレ日本、ロッテ、そして日産自動車の講演を紹介していく。
イノベーション・サステナビリティを柱とするネスレ日本
WMSの立役者としても知られるネスレ日本からは今年、代表取締役社長兼CEO 深谷龍彦氏が登壇。100余年を数える日本での歩みを紹介した。少子高齢化が進行している日本において推進してきたのが「イノベーションを通じた事業成長」と、深谷氏。近年はEコマースも強化しており、その比率は20%を超えたそうだ。
加えて深谷氏が強調したのが、サステナビリティを通じた競争優位性の創出だ。サステナブルなパッケージソリューション、サステナビリティを使ったブレークスルーイノベーション、新しいビジネスモデルの創出、ネットゼロ・カーボンエミッションの達成、(そうした活動に関する)消費者へのコミュニケーションを5つの柱としているそうだ。

今年の新商品で注目すべきは、猫アレルギーの原因物質を中和し、猫の被毛やフケに付着する猫アレルゲンを減らすというキャットフード製品「ピュリナ プロプラン リブクリア」だ。家族と過ごす時間が長いコロナ禍、毎日のキャットフードで猫アレルギー対策をするというのは画期的だ。
フードロス対策としては、賞味期限が短くなり通常の店舗で売れない商品を扱う無人販売機「みんなが笑顔になる 食品ロス削減ボックス」の運用を、みなとく株式会社とともに開始している。「屋外に設置してあるものが壊されない、盗まれない」と日本社会の安全性を象徴するものとして外国人が驚く自動販売機への着目は、日本ならではの発想なのだろう。いずれも、デービッド・アーカーが説いていた“新たなサブカテゴリーの芽”と言えるのではないだろうか。
同社はコミュニケーション面でも次世代への訴求を強化。「わくわくさん」こと久保田雅人氏やカジサック一家らとともに、親子で楽しく地球環境について学ぶエコプロジェクト「#NescafeOurPlanet」の一環として環境啓発のオンラインイベントをYouTube開催。また多面的なコラボとして国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、人気マンガ『宇宙兄弟』とタッグを組み、「みんなで学ぼう!~バーチャル科学館~」の「ネスカフェ×JAXA×宇宙兄弟」スペシャルサイトを制作した。