開発に取り組む企業が意識すべき3つのポイント
MZ:企業がアドバンステックに取り組む上で、意識すべきポイントについてお教えください。
川村:大まかに、3つのポイントがあると思います。
1つ目は、技術の未成熟さです。未成熟な技術の活用には、試行錯誤を前提で取り組む必要があります。1つのテクノロジーに固執しすぎず、他のソリューションと組み合わせる工夫や、柔軟さが求められる領域であるという理解が求められます。
2つ目は、デバイスの普及です。先ほど、顧客体験のために独自のヘッドセットを開発したFiatの事例をご紹介しました。最近になって、Fiatと同じことをスマートフォンで実現したのが「HERO」です。
HEROはECと実店舗をつなぐオンライン接客ツールで、ユーザーが問い合わせると近くの店舗の販売員と遠隔でつながり、商品の実物を見せてもらったり、詳しい説明を受けたりできるサービスです。
FiatもHEROもやっていることはオンライン接客ですが、HEROはスマートフォンが普及したからこそ、実現できたサービスです。
Fiatのように莫大な予算をかけて新しい価値を作り出す取り組みは、社会に大きな影響を与える反面、簡単にできることではありません。デバイスの普及が実現の可能性を上げ、企業が参加しやすい状況を作ったといえます。
川村:3つ目は、ワークフローの見直しです。企業がパートナーに企画を発注する際、ウォーターフォール型の開発になりがちですが、アドバンステックは、実際にやってみなければわからないことの多い領域です。
アドバンステックのプロジェクトでは、プロトタイピングによる体験の模索、関係者間のイメージ共有、フィジビリティ担保などを、アジャイルで進めていく必要があります。
泰良:そういう意味では、企画の構想段階からユーザーに届けるエンドまで、企業と一体となってプロダクトを作ってくれるパートナーの存在が、アドバンステックの活用において非常に重要だと思います。
固定概念に囚われず「三方良し」を目指す
MZ:アドバンステックとマーケティングの両面に強みを持つ電通デジタルとして、今後のどのようなCXを実現したいとお考えでしょうか。
泰良:CXの実現において、我々はよく「三方良し」の話をしています。当社に仕事を依頼してくれた企業、サービスを享受する顧客、そして社会全体にとって価値のある、所謂ソーシャルグッドの実現です。
たとえば、中国のタクシー配車アプリ「DiDi」は、ソーシャルグッドの好事例です。
元々中国のタクシーでは運転が荒い、遠回りする、過剰な料金を請求するなどの問題が多発していました。DiDiは、タクシーの運転状況をセンサーで監視しつつ、乗車したユーザーが運転手の対応を評価できる仕組みを導入しました。
運転手側としても、評価次第で給与が上がる仕組みになっているため、無謀な運転をしなくなります。結果として運転手の人柄も良くなり、社会全体が穏やかになったそうです。
DiDiは極端な例ですが、我々がアドバンステックを通じて目指す方向性は同じだと思います。
川村:固定概念に囚われないチームでありたいです。
今回のコロナ禍で私が一番「やられたな」と感じたのは、「黙食」のポスターです。「静かにご飯を食べましょう」のようなプロモーションが沢山実施されたにも関わらず、最も世の中を動かしたのは、福岡のカレー屋さんが作成したポスターだった訳です。
アドバンステックの領域はまさに日進月歩。テクノロジーを使うことで、今まで不可能だったことが可能になることから、我々はテクノロジーを積極的に活用していますが、目的を実現するための手段は何でも良いと思っています。フォーマットに固執せず、課題解決のために柔軟な打ち手を提供できるポジションを、電通デジタルとして目指していきたいと考えています。