パーパスは“魔法の杖”ではない――「投資」対象としての側面
中堅リーダー森崎さん、新人2名、ベテラン1名による新規事業開発への挑戦の物語は第14回を迎え、いよいよ次回で最終回というところまで漕ぎつけました。一度これまでの流れを振り返ってみましょう。
チームは当初、「みらい製菓」の社是である「お菓子で世界を笑顔にする」を出発点とし、創業者が行っていた「子供たちといっしょに商品開発をする」プロセスから「フードロス」というテーマをコンセプトに設定。なお、ターゲットのインサイトを捉えきれておらず、失敗してしまいました。
しかしメンバーの機転により、お菓子として作った試作品を食材として利用するアイディアが生まれ、さらに大学生やNPOとともに「子供の『みらい』を守り続ける」というブランドパーパス、社会価値などを設定し、ついに「みらいのごはん」が生まれました。
「みらい製菓」はお菓子ひとすじでやってきたメーカーです。これまでとは違う方向性に反対意見もありましたが、お客様起点をぶらさずに開発を続けることで、サプライチェーンにも環境負荷にも配慮した商品が完成。地道なマーケティング活動により現在のところ売れ行きは堅調であるものの、消費財はある程度の規模にならない限りコスト効率が悪いことが多く、始めたばかりの「みらいのごはん」事業も最初の岐路に差し掛かっています。
こうしたパーパスを掲げるブランドは、実際の社会においてどのように評価されているのでしょうか?
日用品の世界において代表的なグローバルブランドを多く擁するユニリーバは、社会的意義を持つブランド(サステナブル・リビング・ブランド)は、そうでないブランドと比較して50%早く成長したと発表しました(ユニリーバ・ジャパン『サステナブル・リビング・ブランドがひきつづき高成長を牽引』2017年7月16日)。
この内容は、パーパスがブランドの成長をもたらすというひとつの根拠として、多くのパーパスドリブンなマーケティング推進の現場で参照されています。
もちろんこの連載でもたびたび言及しているように、コモディティ化しやすい日用品においても、パーパスは顧客の共感を生み出し惹きつける誘因力となりえます。しかし当然ながら、パーパスさえ明確であれば必ず成功するような魔法の杖ではありません。
そして、事業を大きくするにはそれなりの投資が必要です。現状維持で継続するにしても人も費用も設備も必要ですから、それなりの覚悟は必要になります。
顧客や原料供給者、製造パートナー、投資家など、企業の利害関係者を総称して「ステークホルダー」と呼ぶことがありますが、この語源となった「stake」とは「掛け金」のこと。つまり顧客もパートナーも皆、事業が掲げたパーパスに共感し「投資」しているということです。
パーパスはあくまでも事業側の目的として始まりますが、事業が始まれば、それはお客さんとの約束にもなります。そしてこの物語では、新規事業メンバーの奮闘により、「子供の『みらい』を守りたい」と考える人々が、事業を中心に集まり始めています。
自分たちのやってきたことを信じて、このまま進み続けることは許されるのか。結果は「経営判断」に任されることとなりました。撤退か、継続か。社長の下す決断は? 次回、いよいよ最終回です!