抑圧が続く社会で求められるコミュニケーションとは?
――「かわいいは止まらない」というキャッチコピーが付けられたクリエイティブも、かなりインパクトがありますね。

中島:このクリエイティブは、2021年の3~4月にかけて展開したものです。
それまでの広告はどちらかと言うと、トレンド、シーンに合わせたヘアスタイルやHow toの提案をしたものでしたが、2回目の緊急事態宣言が出され、抑圧の期間がさらに続くことになった状況を受けて、「抑圧からの解放」をテーマに伝えたいと考えました。
ブランドとしての想いを伝えながら、ターゲットの想いを引っ張っていく広告と捉えていましたので、初めは社内に異論も出ましたが、社内調整しつつこのクリエイティブを押し通していきました。掲出が始まると売上との相関も見えましたので、方向性は間違っていなかったと考えています。
辻:How toみたいな日常の切り出しも大事ですが、みんな抑圧されている状況下においては、突き抜けて元気を与えてくれる存在が必要なのではと思いました。見るだけで元気になれる、だけど商品の特性を伝えられるように、過度にまとめ髪を表現したのがこのビジュアルです。
平時ならやらないけど、有事のときに人を元気づけるブランドでありたいとの想いも込めました。
「Say」と「Do」をセットで提案することが行動変容につながる道
――広告以外に展開されたコンテンツもSNSで反響が大きかったんですよね。
中島:2020年9月の「マスク盛れ」ローンチに合わせて実施した「マトメージュメーカー」ですね。目やヘアアレンジ、マスクなどのイラストパーツを組み合わせて自分だけのアバターを作れます。組み合わせは1500京以上で、作成したアバターはSNSでシェアしてアイコン画像に使えるようにしました。
広告などでブランドから一方的に発信するだけでなく、SNSで拡散してもらうことで、ユーザーが自発的に「マスク×ヘアアレンジの楽しさ」を広める仕掛けを意識しています。
辻:マトメージュの訴求をしたくても、世の中がそれどころじゃないぐらいに疲弊してしまっていたので、まとめ髪をすることでどういう楽しさがあるのか模擬体験を届けられる企画を考えました。
生活者の方々からすると、使えない時でも延々と商材を訴求してくるブランドよりも、そんな時だからこそ宣伝ばかりではなく自分の気持ちを上げてくれるブランドを選びたいというのは自然なことだと思うんです。
やってみると、「自分はこんなヘアアレンジが好き」というのをお客様発信で伝えてくれる様子がうかがえたので、楽しんでもらえるコミュニケーションが一番伝わっていくんだなと肌感覚で感じられましたね。マトメージュが、「ヘアアレンジ」を届けるブランドから、「ヘアアレンジを通じて“可愛いを楽しむ”ブランド」に変わる一歩目になったように思います。
――施策を通じて、どのような気づきが得られたのかお話しいただけますか。
中島:コロナのような有事のとき、右往左往してしまいがちですが、どんな時代、状況だろうと答えは常にお客様側にあると実感しました。
そう気づかせてくれたのは、緊急事態宣言中に部内のメンバーが見つけてきた、あるツイートです。
そのツイートには、元々まとめ髪があまり好きでなかった方が、今はマスクで輪郭が隠せるからまとめ髪に挑戦してみようという内容が書かれていました。一見市場が縮小しているように見えても、本能的に「オシャレしたい」「かわいくいたい」想いがあることがわかりました。そうしたマインドを参考に、どんなときもオシャレを全力で楽しんでいいんだってことを、ブランドがサポートすることができたのかなと思っています。
またその際に、SayとDoをセットで提案することの大事さも改めて痛感しました。
コロナでも全力で楽しもうというメッセージ「Say」と、それをサポートする形でマトメージュメーカーやSNSアカウント、クリエイティブなどの「Do」がセットになることで、行動変容まで促す設計ができたのが今回の収穫だと考えています。