※本記事は、2021年1月25日刊行の定期誌『MarkeZine』73号に掲載したものです。
市場によって異なる、デジタル化の様相
グーグル合同会社 コンシューマーマーケットインサイトチーム
リサーチ部門統括 小林 伸一郎(こばやし・しんいちろう)氏慶應義塾大学を卒業後、パナソニックにエンジニアとして入社。後に博報堂に入社し、「メディアのデジタル化に伴う広告ビジネスの変化」「テクノロジーの進化が生活者の行動にもたらす変化」についての調査研究に従事。2011年にGoogle日本法人に入社し、テレビとデジタルのクロスメディア広告効果を計測するプラットフォームの開発をエンジニアリング、パートナーシップの両面でリード。そのほか、スマートフォンの普及による情報行動のモバイル化が購買行動に与える影響の検証などを行う日本と韓国のGoogleリサーチ部門を率いている。
――小林さんのチームでは、様々な切り口で生活者リサーチを実施されています。まずはGoogleがこうした生活者リサーチに取り組む目的から、お聞かせいただけますか?
私たちコンシューマーマーケットインサイトチームの役割は、大きく2つあります。1つはGoogleの広告プロダクトがどれだけ消費者に影響を与えるかを可視化すること。もう1つが今回のお話に当たるものですが、多様化するデジタル環境にさらされている生活者の行動を観察して、その変化を捉え、今後を予想するというものです。
「テクノロジーによって世の中が変わった」という言説をよく見聞きしますが、本当に世の中を変えているのは、実はテクノロジーではなく、それを使う生活者自身です。生活者は氾濫している情報をどうやって処理しているのか、どこにペインポイントを抱えているのかなどをきちんと理解していくと、テクノロジーをより便利に生活者に寄与する形で使うことができるようになります。Googleにとっても、様々な事業者の方にとっても、こうしたリサーチは役立つものであると考えています。
――では、デジタル上で楽しめるエンタメコンテンツの利用動向について、調査結果をもとに解説をお願いします。
今回の調査(※1)は、動画/マンガ/音楽/ゲームの4つのカテゴリを横断して行いました。まず、すべてのカテゴリで共通しているのは、デジタル化の比率が伸び続けているということです。とはいえ、デジタルシフトの進行度合いには違いがあります。マンガ、ゲームは50%以上がデジタル化しているのに対して、動画は41%、音楽に関してはまだ19%という状況です。これは市場全体の規模にも影響していて、過去10年間の市場規模の推移を見ると、動画と音楽は横ばいから微減に。一方、マンガとゲームはデジタル化により、市場全体が成長していることが見て取れます。つまり、どの市場においてもデジタル化は成長セグメントであるものの、それが市場全体を押し上げるほどの存在感になっているかどうかは、カテゴリによって異なるということです。
次に、可処分時間と可処分所得を軸に、各カテゴリの利用者の分布を見ていきます。
動画(ここではSVOD:定額制動画配信サービスを対象とする)では、可処分所得が高いエリアに利用者が集中しています。一方で、可処分時間が増えても、利用者数にはそこまで影響していません。SVODは特性上、定額制課金が中心のビジネスモデルです。よって、時間が長いからといって利用金額が増えていくわけではない。ただ、毎月一定額を支払う必要があるため、金銭的な余裕があることが利用において重要な要素となっています。
続いてマンガは、動画とは違う様相になっています。最も大きいバブルは、右上の可処分時間が長く可処分所得の高いエリアにあって、これもコンテンツの特性を考えると当然ではありますが、電子コミックを読むのには時間がかかりますし、何かをしながら読むというマルチタスキングしやすいコンテンツではありません。また、課金方法もコンテンツごとに課金するケースが多いため、可処分時間、可処分所得ともに高いエリアで利用者が多くなっています。
対して、ゲームはマンガと異なり、最も大きいバブルは可処分時間が少なく可処分所得の高いエリアにあります。スマホゲームの課金動機は、時間をかけずにゲームのレベルを上げていくことにあります。なるべく早くレベルを上げるために「時間をお金で買う」という動機で課金するので、このような結果が出ています。