感情的価値によって圧倒的に支持されたiPhone
感情的な価値が差別化に繋がる例を挙げましょう。たとえば、AppleのiPhone。iPhoneがスマートフォン市場をけん引するフロントランナーであることは、周知の事実です。
実は2007年の発売当時、「ガラケー」と呼ばれるフィーチャーフォンと比較すると、iPhoneは機能の数では劣っていました。しかし、画面に直接触れてタッチパネルで操作するという携帯電話らしからぬ画期的な機能と目新しさを訴求し、消費者は従来の携帯電話にはない「新しい体験」を支持しました。実用性だけでなく、iPhoneを操作すること自体に驚きやワクワク、期待感といった感情が結びつき、消費者に価値があると認識されたと考えられます。
そして、現在のスマートフォン市場はiPhoneの登場以降、他社の追随や新規参入もあり成熟しつつあります。カメラの性能やディスプレイ、バッテリー、スピーカー、マイクの音質など、機能面で大きな差はないように思います。つまり、スマートフォン市場はコモディティ化に差し掛かっていると言えますが、こうした状況下でも、日本におけるiPhoneユーザーのシェアは高いとされています。加えて高価格であるにも関わらず、多くのユーザーに今も選ばれるのはなぜなのでしょうか?
感情的・心理的な価値がブランドエクイティを高めていく
もちろん、iPhoneの直感的な操作性による使いやすさ、性能、Appleサポートの応対品質など様々な要素がありますが、多くの消費者がiPhoneを支持するのには、恐らく「デザインが良い」「先進的である」「かっこいい」「誇らしい気分になる」といった“イメージ”による動機が大きいのではないかと思います。読者の中にも、こうした理由でiPhoneを選んでいる方が多いのではないでしょうか。
このように、機能的な価値だけでなく、消費者が抱く様々なイメージは消費行動に大きな影響を与えます。こうした商品やサービスなどのブランドに対する認識の蓄積を、ブランド論の第一人者として知られるD.A.アーカーは「ブランドエクイティ(ブランド資産)」として体系的に整理しています。
ブランドエクイティは、「ブランド認知」「ブランド連想」「知覚品質」「ブランドロイヤリティ」などから構成される概念です。ここでは詳細内容の説明を割愛しますが、マーケティングの結果として、消費者の頭の中に蓄積されている知識やイメージまでも含めて「資産」と捉え、適切に管理していくことが重要だと述べられています。