「客観的価値」ではなく、「主観的価値」が満足度を高める
ここで着目すべき点なのが、「知覚品質」=パーセプションです。知覚品質とは、消費者が商品やサービスに対して認識している品質のことを指しており、イメージも含まれます。これは、競合他社の商品より客観的に優れている点があったとしても、実際の価値とその評価は一致しない、という考え方です。つまり、良くも悪くも、消費者が主観的に判断した品質ということです。たとえそこにズレがあったとしても、それが消費者にとって事実になるため、ポジティブに認識されれば評価も高まります。
こうした知覚品質が顧客満足に影響を与えることは、サービス・マーケティングの領域で明らかにされています。消費者の心理的プロセスとして、客観的・実質的な商品やサービスの品質により満足度が高まるのではなく、その間に消費者の主観的な評価があり、その評価を通して顧客満足が形成されるという関係です。つまり、主観的な評価というフィルターが存在していると言えます。

たとえば、航空業界を思い浮かべて下さい。気配り、目配りのおもてなし精神で、客室乗務員の質の高い接客は、付加価値を高めるサービスとして展開されています。単なる移動ではなく、快適な時間を過ごすことを重視する人にとっては、徹底した接客サービスは高い評価に繋がるでしょう。
一方で、飛行機を移動手段とだけ捉えている人にとっては、価値を感じにくくなります。その人にとっては、LCC(格安航空)で安価に移動できるほうが満足度が高くなる可能性もあり得ます。接客サービスの品質が客観的に高くとも、それに価値を感じるかどうかは、人によって異なるということです。
これは、先述したiPhoneにおいても同様のことが言えます。スマートフォンにデザイン性を求める人にとって、iPhoneの洗練されたデザインや外観は価値として感じやすいですが、デザイン性を求めない人にとっては高い評価に繋がらない。このように、消費者一人ひとりに異なる主観的なフィルターが存在していることを理解する必要があります。
消費者の心を動かすには?
D.A.アーカーは、こうした消費者の主観的価値にアプローチするには、顧客が具体的に感じる価値である「便益」を提案する必要があると主張しており、「人々の心をつかむのは、情緒的便益、自己表現便益、そして社会的便益である」と述べています。
・情緒的便益:商品やサービスの購入プロセス、利用において感じる特別な価値
・自己表現便益:ブランドを所有したり、身に着けたりすることで、理想とする自分を表現できる時に感じる価値
・社会的便益:ブランドを購入したり使用したりすることで覚える“チームやグループに所属している”という感覚的な価値
こうした視点は有用性がある一方で、マーケティングの実務に落とし込むには抽象度が高く、乖離があると感じています。加えて、消費者のパーセプションという視点も、これだけでは不足しているように思います。
では実際に人々は、何によって心が動くのでしょうか。消費者が知覚する価値を体系的に知ることは、マーケティングコミュニケーションの設計においても非常に重要だと思います。次回は、消費者のパーセプションに関する研究からそのメカニズムを整理し、紐解いていきます。