「バリューベースプライシング」から始めよう
では、価格決定力を上げるために、一体何から始めればいいのでしょうか。
まず自社において価格決定フローを見直す必要があります。プライシングの基本的な考えを、企業都合から消費者都合にシフトすることが重要です。
これまで価格は、売り手がコストに粗利をのせて決定することが一般的でした。このプライシング手法が「コストベースプライシング」です。これに対し、顧客が商品やサービスにどれだけの価値を感じているかを推測し、その価値から逆算して価格を決定する手法が「バリューベースプライシング」です。

コストベースプライシングでは価格決定の要素が原材料や人件費といった原価であるのに対し、バリューベースプライシングでは、商品やサービスの付加価値、競合価格、需給バランスなどから価格を決定していきます。
同じ商品でも、人や状況によって、買い手が「払ってもいい額」は変化します。払っていい額というのは、あくまで買い手の価値観で判断されるものであり、商品がいかに素晴らしいか、製造するのにどのぐらいのコストがかかったかは、乱暴に言えば関係がないのです。
ただ、悩ましいのは、買い手側が「払ってもいい額」を素直に教えてくれるわけではないということです。
適正価格は、買い手が教えてくれる
そこで大事なのは、消費者が感じる価値をいかに理解するかです。消費者が感じる価値を把握するもっとも良い方法は、当たり前ですが、直接消費者に聞くことです。インターネット調査やアンケートによって得た情報をもとに妥当な価格帯を探る方法があります。
その一つであるPSM分析は、商品やサービスの購入者に対してアンケート調査を行い、「高すぎて買えないと感じる」「高いと感じ始める」「安いと感じ始める」「安すぎて質が不安と感じる」といった4つの価格の閾値について回答を得る分析手法です。回答をグラフ化することで、その商品やサービスについて、妥当だと考えられる価格帯を導き出すことが可能です。
PSM分析の実例「この施設の入場料は、適切か?」
PSM分析を利用した消費者調査の実例をご紹介しましょう。ハルモニアでは、テーマパークや劇場などの各施設について、現在の入場チケット価格が適正かどうかを再考するため、PSM分析を行いました。

PSM分析では、4本の折れ線グラフの交わる点に着目することで、この施設で設定すべき入場チケットの価格を明らかにします。たとえば上図の施設であれば、消費者にとっての理想価格は4,500円で、少し高く感じるが「このぐらいであれば払ってもよい」という受け入れ可能な妥協価格は4,800円、これ以上高ければ利用したくないという上限価格は5,200円であることがわかります。
PSM分析の結果が、そのまま採用すべき価格となるわけではありません。実際には他にも多くの要素の考慮や戦略的な判断が必要です。それでも、このように顧客が知覚する価値を解像度高く捉えることが価格決定力向上の第一歩と言えるでしょう。