価値を決定する要素は複雑。「価格体系」から設計を
バリューベースでプライシングを考えていくと、時間や場所、顧客属性などによって、価値が大きく異なることに気がつくはずです。同じ商品に対しても、消費者の価値は一定ではありません。
たとえば、夏休み期間だから仕方がないと閑散期の何倍もするホテルの宿泊料を受け入れることもありますし、スキー場で温かい飲み物を提供してくれる自動販売機は、多少割高であってもありがたいものです。これはつまり、時間や場所といった軸で消費者の価値が変化しているということです。
また、価格体系も複雑です。都度支払いなのか、サブスクリプションなのか。支払い方法は、クレジットに加え、電子マネー決済、キャリア決済、QRコード決済など、ここ数年で増加しました。消費者が価値を感じるメニューも、金額というわかりやすい形で表現されるものだけではありません。ポイント付与やキャッシュバックなど複雑多岐にわたります。

適切な価格差別のためには、消費者の価値観やその差異を正しく理解し、それに合わせた課金体系をデザインすることから始めることが重要なのです。
売る時期や時間によって価格を変動させるダイナミックプライシング
自社の商品やサービスについて考えたとき、価値変動の要因として、時間軸による差異が強いようであれば、「ダイナミックプライシング」が有効です。
ダイナミックプライシングは、同じ商品やサービスの価格を、売る時期や時間によって変動させる価格戦略のことです。時期や時間によって料金が大きく異なるホテルの宿泊料や航空チケットなどがその代表例です。
ホテルや航空業界では、比較的前からこのプライシングが採用されていましたが、限定的なものでした。奇しくもダイナミックプライシングの普及を推し進めたのは、生活スタイルや価値観を何もかも変えてしまった、このコロナ禍でしょう。Eコマースの進化、キャッシュレス決済の浸透も加わり、ダイナミックプライシングへの注目は、多くの業界で一気に高まりました。
需要が高いうちはできるだけ高く売りたいが、無駄にしてしまうぐらいなら、安くても売り切りたいというのが企業側の思いでしょう。ダイナミックプライシングはこの無駄を極力減らし利益を最大化するために有用な手段です。
既に活用が進む、航空、ホテル、エンターテインメント業界に加え、鉄道、テーマパーク、タクシーといった、これまで一律価格が基本だった業界でも、相次いで変動料金の導入が検討されています。
ダイナミックプライシングは、対象となる商品やサービスについて「リミットがあり翌日に持ち越せない」「需要が時間軸で変わり、ムラが大きい」「供給に上限があり、簡単に増やしたり減らしたりできない」ものに取り入れやすい特徴があります。
このような特徴を考えると、これまで固定的な価格設定がなじんでいる業界にも広く応用することは可能でしょう。実際、食品小売や外食、物流、サービス業など新たな業界でもダイナミックプライシングの導入が始まっています。
加えてお伝えしたいのは、買い手が感じる商品の価値は、固定されたものではなく、常に揺れ動くものであるということです。一度決めてしまえば終わりではなく、変化するターゲットに対して、変化するプライシングで対応していく必要があります。
次回は、具体的なプライシングの組み立て方、時々刻々と変わる顧客のバリューにプライスを合わせていく方法論についてお届けしていきます。