7~8:マーケターが持っている「既成概念」を外す工夫も必要
7.マーケターではない同僚と壁打ちしてみる
私がよくやるお勧めの手法です。マーケティング部門の人は、流行に敏感であり、業界のことに精通しているが故に、アイデアを狭めてしまったり、消費者の本質的なインサイトに遠回りしたアプローチをしてしまいがちです。ブランドにフィットしているか、きちんと利益が出るか、そもそもスケールできるか、といった消費者ファーストではないビジネス的な側面を無意識に考えたうえで、発言をします。
しかし、同じ会社でも研究職や工場の生産管理職や人事職の人は、普段から見ているものが全然違います。そのため私は、マーケティング部門以外の人にも相談をしてみて、違うインプットをしてもらうようにしています。製品開発を進めるか否かの大切な会議では、部門に関係なく忌憚ない消費者目線の意見をすべての部署のリーダーから吸収するようにしています。
8.ロイヤルユーザーとノンユーザーに同じ質問をして、回答の差を比べてみる
ロイヤルユーザーはプロダクトごとに定義が変わってきますが、たとえば自社商品を何度もリピート購入している消費者、一方ノンユーザーは、そのカテゴリーの製品を一度も使ったことがない消費者です。
マーケターは往々にして、ロイヤルユーザー目線での製品開発をしがちです。ロイヤルユーザーはブランドのことをしっかりと理解し、愛着を持っていて、こちらのメッセージをしっかりと受けてくれるので、マーケターにとって、それらのユーザーに製品を買っていただくことの難易度は、高くありません。一方、ノンユーザーはそのブランドを知らないため、ブランドの力で製品を買ってもらうことはできません。愚直にインサイトを捉え、ベネフィットを伝えなければいけません。実際にやってみるとわかりますが、ロイヤルユーザーとノンユーザーに質問をぶつけると、返ってくる答えが一緒の部分と異なる部分があります。答えが異なっている部分こそに、インサイトのヒントがあり、同じ答えになるようにユーザーの考え・行動を変更することこそがノンユーザーにロイヤルユーザーになってもらう一歩となります。
反対に、マーケターの命題である新規獲得ばかりに目がいってしまうと、既存の顧客に対するマーケティング施策が不十分になってしまうことがあるため、ロイヤルユーザーがロイヤルユーザーではなくなる瞬間が何かを調べる必要もあります。ここも同様に、ノンユーザーとの回答の差を見ていくことでヒントを見つけることができます。
以上、8つの「型」について解説をしました。繰り返しになりますが、これらは、インサイトを発掘するスキルを向上するためのトレーニング方法に過ぎません。私の経験上、マーケティングのスキルは、デスクに向かい、ひたすらに作業をしているだけでは成長に限界があると思います。消費者や、モノ・コトに実際に触れ、それらの心理や背景を妄想し、考え抜くことや、実際にいろいろなコンセプトを書き、商品を発売し、実際に成功や失敗と積み上げることによって、本質的なスキルが伸びていくと考えています。時代に応じて、マーケティングのHOWの手法は流動的ですが、WHO/WHATの部分は一定程度普遍的なスキルになりますので、早めにスキルとして訓練を積むことをお勧めします。
インサイトの発掘プロセスはとても難しい一方で、最も面白い部分でもあるので、皆様のマーケティングの過程でゴールが見えづらくなった時は、いつでも相談してください(著者 木村のアドレス:tsukasa.kimura@unilever.com)。様々な意見交換をする中で、見えてくることがあるかもしれません。一人でも多くのマーケターの皆様が、これまで見えてこなかった、消費者のインサイトを発掘し、世の中に新しい価値を提供することに貢献できることを、応援しています。