ユーザーに嫌悪感を抱かれるインターネット広告
新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、車内、屋外、そしてインターネットーー私たちは日々、様々な種類の広告を目にしています。しかしながら、広告に対して「好意的な印象」を抱いている人の数は、決して多くないでしょう。
特にインターネット広告は他媒体と比べてユーザーとの接触頻度が高く、広告表現の自由度も高いという特徴を持っています。そのため業界自体は大きく成長したものの、ユーザーが広告に対して抱くネガティブなイメージも同時に大きくなりました。
日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が発表した「2019年インターネット広告に関するユーザー意識調査」によると、ユーザーの85%が「インターネット広告への情報活用に不安を感じている」と回答し、半数以上が「広告表示のされ方に対して嫌悪感を抱いている」と回答したそうです。
なぜ広告はこれほど嫌悪感を抱かれるような存在になってしまったのでしょうか。大きな理由の一つに、広告配信事業者が自分たちの利益のためだけに配信設計を行い続けた点が挙げられます。
効率を追求しすぎた広告配信事業者の功罪
本来広告は、事業会社にとって事業成長の実現や利益獲得のために必要な存在です。またユーザーにとっては、普段の生活で目にすることのなかった情報に偶然出会える喜び、いわば“セレンディピティ”を得ることのできる貴重な存在でもあります。ユーザーの目線できちんと考えられた広告は、ユーザーの興味やアクションを喚起し、配信元のブランドに対する好意の醸成に寄与しているのも事実です。
しかし、上述の通りユーザーのインターネットへの接触時間が長くなったことにより、広告主はインターネット広告に対して大きな予算をかけるようになりました。またテクノロジーの発展にともない、インプレッションごとの効果測定や、広告に接触したユーザーの行動追跡が可能に。多くの広告配信事業者は効率的な配信を求め、刺激の強いクリエイティブや過大訴求のほか、一度サイトに訪問したユーザーを追いかけ続けるような広告の配信設計を行うようになったのです。
ユーザーを識別し、執拗に追いかけ回すインターネット広告に対して不満の声が高まる頃、時期を同じくしてヨーロッパや米国・カリフォルニア州など、世界各国の政府や団体が正しい個人情報の利用を促すための政策や規制を強化。その影響は大手メーカーやプラットフォーム企業にも広がりました。中でも2021年4月にApple社が公開したプライバシーポリシーと、それを反映したiOS14.5のアップデートは大きなターニングポイントだったと言えるでしょう。
かつてほとんどの企業が活用していた「Cookieやモバイル広告ID(ADID/IDFA)を利用した計測手法」は今や当たり前ではなくなり、複数サイトを横断したトラッキングやリターゲティングの制限は多くのマーケターに影響を及ぼしています。直近ではiOS15のプライベートリレー(※)やAndroid 12における追跡型広告の制限など、新たな規制が次々と公開。今後もインターネット広告を取り巻く環境は、さらに変化していくことでしょう。
※iOS15から提供が始まったセキュリティ機能。有効化するとIPアドレスが地域ごとに統合されるため、Webの閲覧履歴や個人の識別が難しくなる。
インターネット広告における課題点は前述した広告規制だけにとどまりません。今回は課題点の一つである「ラストタッチアトリビューションモデル」について解説していきます。