※本記事は、2022年3月25日刊行の定期誌『MarkeZine』75号に掲載したものです。
日々増え続けるデータ
データがあふれる時代、世界的に生成・収集されるデータは日々増えていく。これは企業の生産・流通工程における需要だけではなく、デジタル世界と現実が近づき、重なることで生じる「いつでも」「どこでも」「自分にパーソナライズされた」サービスを利用したい、という生活者の需要も一因としてあると考える。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう生活環境の変化もこの増加に拍車をかけているのではないだろうか。
生活者データの活用が前提に
生活者から収集されるデータにはいろいろなものがある。プロフィール属性や行動データ、メディアの閲覧や口コミ、決済履歴や日々の買い物履歴など多岐にわたる。これらの多くは収集した事業者が個人情報保護を行いつつ、生活者のユーザー体験向上や企業間でのビジネス展開に用いられている。
たとえば日用消費財においては、従来の出荷実績や小売企業のPOSレジ売上実績に加えて、各事業者が提供している様々なログデータ(たとえばIDPOS購買データやメディア閲覧履歴、EC行動ログや家計簿アプリでの生活ログなど)を分析・販促活動に用い、自社商品の拡販を行うことが前提になりつつある。ただしこれらのデータはいずれも一長一短な性質を持ち、分析・販促に用いた結果を解釈するには各企業で膨大な試行錯誤と知見が必要になる。
また、アンケートをはじめとする意識データは、企業の大小を問わず利用されているのではないだろうか。特にアンケートの回答は、収集するデータを各企業が求めている軸で定義できることから、前述のログデータよりも手に入る結果は解釈しやすいことが多い。一方で、アンケート調査の設計や利用には回答バイアスの可能性を念頭に入れる必要がある。回答バイアスとは、質問の聴き方によって回答内容が左右される、質問者へ配慮した回答になるといった特性である。
加えて、アンケート調査は回答者の記憶に頼っている点もこの手法の課題の一つに挙げられる。エビングハウスの忘却曲線(図表1)では1時間後に56%、1週間後には77%もの内容を忘れるとされている。
生活者の記憶は時間が経つほど信憑性が下がる「ナマモノ」だが、通常のアンケートでは1週間以上経過してから聴くことがほとんどではないだろうか。
日用消費財メーカーをはじめとする、生活者と直接的な接点を保有していない企業では調査会社に依頼してアンケートを取得することも多いが、自社商品購入時の状況を聴くにしても、購入から時間が経っていて詳細な状況を把握できない、といったことも多々ある。
本稿では、買い物直後の生活者に対して購入時の状況を聴取し、生活者の記憶が鮮明だとどの程度ユニークな示唆が手に入るのか、明らかになった事例を紹介したい。