消費者のニーズは購買データからは読み取れない
松本氏は初めに、「『購買=消費者のニーズ』でしょうか?」と問いかける。
我々はPOSデータやアナリティクスツールにより、消費者が何を買っているのかは把握できる。しかし、マーケターが必要とするのは、「消費者が商品を試したり、価値を感じたりした瞬間と、実際に消費者が抱いていた期待値との差分」であるはず。差分を理解することで、できることが増えるからだ。そのためには、消費者が感じた価値を理解しなければならない。「ビジネスの現場における消費者理解の必要性は高まっています」と松本氏は述べる。
そこで松本氏が有用と考えるのが「ジョブ理論」だ。ジョブ理論は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の教授を務め、イノベーション研究で知られる故Clayton Christensen(クレイトン・クリステンセン)氏が提唱した消費理論だ。
ジョブ理論を説明するにあたって松本氏は、「私たちが商品を買うことは基本的に、なんらかのジョブを片付けるために何かを『雇用』するということ」と書籍『ジョブ理論』から引用する。「商品が自分の抱えているジョブを片付けてくれれば、次に同じ状況になれば同じ商品を買うし、ジョブの片付け方に不満があればその商品を解雇する」というのがジョブ理論だ。
物やサービスがもたらす効用やベネフィットを買っている
ジョブ理論からいえることとして、「消費者は物やサービスを買っているが、それ自体を買っているわけではない」と松本氏。「物やサービスがもたらす効用やベネフィットを買っている」という。
ジョブ理論で有名な例が、ミルクシェイクだ。平日の午前中になぜミルクシェイクが売れるのか――調査からは、口寂しさを紛らせるために手を汚すことなく、腹持ちがするという理由で買われていることがわかった。ジョブ理論に当てはめるなら、午前中に車内で口寂しさを紛らわせるという「ジョブ」を片付けるために、ミルクシェイクを「雇用」しているということになる。これは、POSデータでは見えない部分だ。
「消費者の持つジョブこそが一番把握したいことではないでしょうか」と松本氏は問いかける。