“意味性消費”への対応を強化
大丸松坂屋百貨店では、意味性の消費への対応を強化している。
「中国で好調な実店舗の一つに高級商業施設を挙げましたが、ラグジュアリーブランドがあれだけ売れるのはやはり中国ならではですので、我々は『意味のある商品がそろった』百貨店を目指しています」(洞本氏)
ここで言う「意味」とは、消費者の感性や気持ちに訴えかける、心の充足に不可欠なものを指す。たとえば、作り手の哲学や志に対する共感や応援、実際その商品を顧客が購買した場合に生活にどんな潤いをもたらすのかなど、日常生活には必要不可欠ではないように見えるが、楽しさやわくわく感を満たし人の心を動かすのが意味性商材だ。
「これまで百貨店のバイヤーは、よく売れているもの、できるだけターゲットが広いものを見つけようとしてきました。しかし今後は、ターゲットが狭くても底の深いもの、“これから”売れるものを見つけていく。こういう活動がより大事になってくると思います。
これから売れるものを探すという視点でいうと、店舗の役割も変わってきます。我々の場合はモノを売ってお客様からお金をいただくというのが利益の源泉でしたが、今後はたとえばお取引先様からお金をいただくビジネスモデルを取り入れるのも、選択肢の1つとしてあるだろうと考えています」(洞本氏)

アンバサダーが“意味”を伝えるショールーミングスペースを運営
こうした考えと関連して、大丸松坂屋百貨店は、大丸東京店4階に「明日見世(あすみせ)」をオープン。コンセプトは「出会いの循環から新しい可能性を生み出す場」で、店舗で販売をするのではなくその場ではサンプルを見てもらい、あとからネットで買ってもらうという仕組みだ。
他のショールミングスペースと明日見世の違いは、ブランドに代わって商品の「意味」を顧客に伝える「アンバサダー」が接客をしていることだ。販売が目的ではなく、アンバサダーたちは純粋にその商品の意味・価値というものを伝える役割を担っている。ビジネスとしてはPoC段階であるものの、「これからさらにブラッシュアップしていきたい」と洞本氏は述べる。

また、大丸松坂屋百貨店では以前から美術館を備えた店舗を有するなど文化的機能を重視してきたが、そうした機能が今、改めて見直されている。中国における「非物販機能重視の商業施設」と近い位置づけだ。たとえば大丸須磨店では、施設に図書館を併設。松坂屋静岡店には今後水族館が入る予定で、メディアにも注目されている。
洞本氏は最後に次のように述べ、講演を締めくくった。
「従来はモノを売るということに注力していた百貨店も、時代の変化に合わせて形を変えています。買い物がエンタメだった時代は、百貨店が人の集う場でした。しかし今はエンタメ飽和の時代です。そんななかで実店舗を中心とした商業施設がどうやって人の集う場になっていくのか。私は『人』が鍵になると思っています。人の接客力やホスピタリティ力はECにはない価値です。そこにいかにデジタルを活用して、人の力を拡張していくのかというところが重要だと考えています」(洞本氏)