サンプリングにビジネスホテルが最適な理由
ターゲットが安定しており、使用までのリードタイムを短く、安心して配布ができる。そして数万単位のユーザーにリーチが可能。理想的なサンプリング施策における、これらの条件を満たす場所として「当社では、ビジネスホテル一択だと考えている」と梶原氏は話す。
ビジネスホテルの場合、まず使用までのリードタイムを短くできる。また普段と生活環境が変わり、たとえば家で常備している飲食物などがホテルの部屋に存在しないため競合商品が減少し、体験してもらえる可能性も非常に高くなるのだ。加えてチェックインは基本的に夕方となることから、夕食や入浴、睡眠、散歩など様々なシーンへアプローチできる。
ターゲットについても、パッケージや用途で明らかに男性用・女性用とわかる商品については男女のセグメントを分けることが可能だ。利用者の属性については、男性は30代〜50代、女性は20代〜40代がボリュームゾーンで、出張によく利用されることから役職高めの会社員が多い。これらの年齢層・収入層を対象とする商品の場合は、非常に効率良くサンプリングができる。
さらにホテルでのサンプリングは、リーチ数においても大きな効果が期待できるという。
「たとえばAPAホテルの場合。全国で10万室以上を有しており、連泊率が低く、ほぼ毎日、新しいユーザーが訪れています。仮にコロナ禍で稼働率が半分だったとしても、毎日約5万人の新規ユーザーが全国のAPAホテルを訪れていると仮定でき、100万単位のサンプリングも一定期間内に実施できます。
まとめるとビジネスホテルは、リードタイム、ターゲット、配布数などサンプリングにおいて望ましい条件のほとんどを網羅しており、最適なサンプリング場所であるといえるのです」
サンプリングで重要なのは年単位のLTV
さて、ビジネスホテルという空間がサンプリングに適していることは判明したが、実のところ「どのくらい効果があるのか」はシミュレーションや振り返りをしていないことが多いという。その効果を導く方法はあるのだろうか?
「サンプリングにおいて費用対効果を算出するのはとても難しいのが正直なところです。しかし、多くのマーケターとお話ししていく中で『ある程度皆さまに納得いただける』数式を作りました」
そうして梶原氏が提示したのが次の数式だ。
ポイントはLTVに売上が用いられている点。LTVは通常、利益を当てはめるが、今回は解としてROASを導き出すため、売上を当てはめている。
たとえば冒頭の『アタックZERO』の事例のように、大手小売店で洗剤をサンプリングした場合を仮定。試算では、まず一般的なユーザーのLTVを導き出していく。ここでは梶原氏自身を平均的な利用者とし、基本購入価格350円で購入していると仮定する。購入頻度は2ヵ月に1回くらいの割合だ。継続購入期間は、3年ほどを予定しているという。すると、この数式からLTVはおおよそ6,300円(3,500円×0.5ヶ月×36ヶ月)と導き出せるのだ。
数式右辺にLTV以外の数字も当てはめてROASを計算してみると、あくまで仮定の数字ではあるが、このサンプリング施策の費用対効果は約4.6倍と導き出すことができた。
「この算出方法はLTVが大きな鍵となっており、今回の事例では3年を仮置きしています。しかし、実際に平均的な継続年数として妥当であるのか、気になるところですよね?
先ほどのアンケートと同じモニターの方々にブランドの継続意向についてヒアリングをしたところ、シャンプーは2~2.5年未満、アルコール類が3〜3.5年未満、化粧品2~2.5年未満程度、同じブランドを使い続けることが判明しました。この結果から、中長期的なLTVを試算している今回のケースとしては、ある程度の妥当性があると捉えています」