社員の8割が元顧客。採用もインサイト発掘の場になる
──そうした顧客インサイトは、どのようにして見つけていくのですか?
高山:継続的に実施しているアンケートやN1インタビュー、お客様からのメールやSNSでのコメントを通して直接お客様の声を聞くということは、とても大切にしていますね。加えて、スタッフ採用時に応募者に書いていただくコラムも参考にしています。
──コラムですか?
青木:はい、実はクラシコムの社員は8割が元顧客です。採用時には、クラシコムとの出会いや応募理由などを「コラム」として書いていただいているのですが、このコラムを読んでいると、「社員になりたい」と思ってくださるほどエンゲージメントの高いお客様が、どうやって「北欧、暮らしの道具店」と出会い、どのような経験を通して熱量が高まっていったのかが見えてくるんです。
おもしろいのは、出会いや関係性が温まっていくチャネルが少しずつ変わっていくこと。ある時期には「Instagramをいつも見ていた」という声が多かったのですが、最近はYouTube動画で知って、ポッドキャストで関係性が温まっていくというケースが多いのだな、というようなことまで見えてくるのです。
このように、元々の姿勢に加え、社員の多くが元顧客ということもあって、商品・コンテンツ開発においても余計な動機は一切排除して、“100%顧客にフォーカスすること”ができており、これが大きな強みになっています。
100%顧客にフォーカスすることで、初めて本当のインサイトが見えてくる
──余計な動機を排除するとは?
青木:往々にして、商品やコンテンツというものを一般的な商流において100%顧客の満足のために企画するというのは、なかなか難しいものです。たとえば通常の小売店に並ぶ商品を開発しようと思うと、顧客に刺さるかどうか以前に、まず「棚に並べてもらえるか」「棚で目立つか」ということを考えるでしょうし、インターネット上でコンテンツを発信する際には、SEOで上位表示されるか? SNSでバズるか? 売上に繋がるのか? といったことを考えるでしょう。
もちろん、それぞれは別に悪いことではないのですが、「顧客理解」という観点で見ると、いずれも「余計な動機」となり、本来の目的達成を妨げるものになります。
たとえばSEOに配慮すると、フィードバックの中にGoogleアルゴリズムを正しく理解するための情報が混ざって返ってきます。あるいはSNSでバズることに配慮すれば、SNSの生態系を正しく理解するための情報が返ってくるでしょう。つまり顧客以外の部分を配慮すると、その分、顧客理解のための情報が減ってフィードバックが返ってきてしまうということです。そうすると、いつまで経っても顧客のことを理解することができず、結果的にSEOで上位表示されてもSNSでバズっても、ブランドが選好されない、買ってもらえないという状況に陥ってしまいます。
一方で、100%顧客にフォーカスすれば、返ってくるフィードバックは100%芯のあるものになります。そのため、僕たちはこうした余計な動機はすべて排除し、顧客にまっすぐ商品なりコンテンツを投げることで、顧客の本当のリアクションを得ていくことを大切にしています。
──なるほど。おっしゃることはよくわかりますが、実際に行うのはかなり難しいことのように思います。担当者としては、やはり数字的な部分にも意識が向くと思うのですが、社内の目標設定や意識付けとしてはどのように行っているのですか?
青木:何か新しいチャレンジを始める際には、最初の目標設定をスケール=成長ではなくて「真理の探求」に置くようにしています。インサイトという真理がつかめてしまえば、正直あとはどうにでもなるからです。そして、この真理の探求を妨げるのが「無理な目標設定」だと思っているので、当社では意味のないノルマを与えないようにしています。たとえばSNS担当に「今月のSNS経由売上○○円を目指すように」などの目標は一切与えません。あくまで大切なのは顧客のインサイトを得ること。「このコンテンツはお客様に刺さると思ったけど、刺さらなかった」ということがわかるだけで、その施策は成功なのです。
このように、評価や目標を達成するためのハックを作らせない、100%顧客のための施策ができる体制作りはひとつポイントと言えるかもしれません。
高山:この100%顧客に向き合う姿勢は、企業へのマーケティング支援「ブランドソリューション」においても同じです。ブランドソリューション事業では、「北欧、暮らしの道具店」の世界観と顧客エンゲージメントの高さ、コンテンツ・パブリッシングで培った企画制作能力を活用し、商品開発からプロモーション活動、サンプリングやテスト販売など、クライアント企業のマーケティング上の課題に対する総合的なソリューションを提供しています。
こうした座組の取り組みでは、広告主サイドと制作サイドで意見がぶつかってしまうケースも多いと思いますが、私たちは取り組みの主語をクラシコムでもクライアント企業でもなく「お客様」にし、「お客様は何を求めているだろうか?」という視点で企画を立てていくことを大切にしています。それこそ余計な動機はすべて排除し、お客様に100%向き合う。これにより、タイアップ広告という枠組みに止まらず、お客様を起点に、両者でブランドの価値を共創していくコラボレーションが実現しているのではないかと思っています。