ひとり広報に就任し、孤軍奮闘を脱するまでの経緯とは
MZ:北野さんは未経験・社内ノウハウなしで広報PR業務を始めて、どのようなプロセスをたどったのでしょうか。
北野:先ほど少しお話ししたように、最初は「自分の仕事はメディア対応だ」と思ってしまっていたんです。でも半年くらい経って、会社の課題を解決して、ファンを作ることが仕事であり、メディア対応は手段の一つだという広報の本質に気づきました。社長や経営層には、今この事業を伸ばしたいとか、採用に力を入れたいとか、課題を感じていることがあるはずです。広報は社長の想いを語る代弁者だとよく言われますが、それを知ることから始めました。
とは言え中小企業はリリースを出すネタがたくさんあるわけではなく、出しても反応がないことも多い。そこでリリースがなくても取り上げてもらえるよう、メディアさんといろいろ雑談するようになりました。
さらにもう少し経つと、「これ、全部を一人でやるのは難しい」とまた気づいて。社長と話しながら、その時々の経営課題に合わせて、注力している領域はちゃんと押さえようと優先順位を付けるようになりました。
日比谷:社長を始め、経営層との連携は、孤独を卒業する大きなポイントでしょうね。具体的な打ち手はどうやって学んだのですか?
北野:それこそ日比谷さんが運営されている勉強会のような場で、他の広報さんたちがどういう活動をしているのかを見て、選択肢を身に付けてきました。それで、社長が解決したい課題にその手法がどう活用できるかをいろいろ当てはめていくんです。永遠に終わらないパズルのような感じですね。
本田:まさにパズルですよね。とてもクリエイティブな営みです。
北野:経営課題は毎日の雑談からも把握するようにしています。それが蓄積されると、なにかを判断する際に、「社長はこのときにこういう判断をするだろうな」というのが、だんだんわかるようになるんです。

経営者にとって広報はブラックボックス!?
日比谷:元々は広報の人の悩みを解決したいと思って、先ほどお話しした勉強会を始めたのですが、蓋を開けてみると「社長はわかってくれない」といった生々しい声がたくさん出てきて。どういうことだろうかと、今度はスタートアップの経営者向けに広報のレクチャーをたくさんやってみると、広報PRに対する理解が進んでいないというのが見えてきました。
本田:広報PRは業務の特性上、KPIがはっきりしていない場合も多いのですが、特にスタートアップの場合は目標が立てにくい。広報側は何をどこまでやったら目標達成なのか、経営層は何をどこまでやってもらえば褒めてあげるのかというのが、お互いわからなくなっているように見えます。
日比谷:業務プロセスがブラックボックスになってしまっているんですよね。「メディアに露出する」というアウトプットを目指すとしても、どんなプロセスで進めればよいかをよく分かっていない。でも、経営者がイメージできる言葉に置き換えて「広報の仕事はこういうプロセスでやるんです」と説明すると、一気に理解が進みます。ただ、「広報経験の浅い広報や、経営陣とのコミュニケーションをうまくできないビジネス経験の浅い広報の場合、自分で説明するのは難しい。軌道に乗るまで経験者に並走してもらうのも一案かもしれません。
マーケティングのファネルの考え方は、広報にも使えると思います。マーケティングでは、受注する、もしくはその先でお客さんが課題解決してアップセルするといったことがゴールです。そのゴールまでのプロセスを、マーケティング、インサイドセールス、セールスと分解して考え、うまくいっていなければ、リストの数が足りないのか、コールの精度が低いのか、それともトークが悪いのかなどと原因を考えますよね。

広報も、露出を通じて態度変容や何等かの変化を起こすという点でゴールは同じです。「なんだかうまくいっていないけれど解像度が低い」という状況の方は、ゴールの手前にどんなフローがあるのか、業務プロセスを分解することから始めてみると良いのではないでしょうか。