「THE MODEL」は日本企業の経営幹部に共通言語を提供した
社内での立場に悩むマーケターは「The Model」の活用方法に頭を悩ませているかもしれません。福田康隆さんが現代的な営業プロセスについて解説した書籍『THE MODEL』(翔泳社)を出版したのは2019年1月のことです。同年3月にアドビが旧マルケトを買収した関係で、日本のアドビチームは福田さんに近いところでその方法論を実践する機会がありました。

私が言うまでもなく、The Modelが日本のBtoBマーケティングにもたらした影響は大変なものです。福田さんを差し置いて私が言うのも気が引けますが、The Modelの功績を1つ挙げるとすると、マーケターが社内で自分たちのビジネスをより良いものにしていくための「共通言語」を提供してくれたことだと思います。
この本が出る前は「MQL」「SQL」といった3文字用語の意味をはじめ、インサイドセールスやカスタマーサクセスがどのようなプロセスで動いているのか、どのようなレベニューモデルが必要なのかを理解していたのは一部の人たちだけでした。The Modelに対する理解が十分でない懸念は残るにせよ、日本企業の経営幹部がBtoBマーケティングの世界共通言語を知った──このことは、営業や経営陣と対話しなくてはならないマーケターにとって、建設的なディスカッションができる土壌が整ったことを意味します。
一方で、マーケティングに加えてインサイドセールスやカスタマーサクセスも設置し、体制を整えたもののうまく機能していないケースもよく耳にします。言ってみれば、自転車を見て「あんな乗り物が欲しい」と考えた人が、見様見真似でパーツを揃えて組み立ててみたものの、全く動かない──そんな状況です。なぜそうなるのでしょうか。理由はその自転車が単なる模型にすぎないからです。車輪を前に動かすためにチェーンがなく、行きたい方向を調節するハンドルと他の部品がつながっていなければ、当然自転車は動きません。
自社の担当者ニーズを理解することが顧客理解の第一歩
自転車の例に置き換えて考えると、組織に新しい仕組みを定着させるにはチェーンに相当するプロセスをセットで作り込まなくてはうまく機能しません。特に大企業の場合、社内にできあがっているプロセスがあるため、そこに新しいプロセスを作って定着させるのは二重に難しくなります。プロセスを変えることはその会社のカルチャーを変えることでもあります。異質なものを持ち込む分、体制を変えるだけでは機能しないのです。
アドビのデジタルエクスペリエンス事業でも、新しいプロセスを作り実践することは簡単ではありませんでした。組織統合から始まり、異なる2社のプロセスを整理し、営業部門との連携を深め、そして今はマーケティングとカスタマーサクセスの連携という新しいテーマに取り組んでいるところです。
一連の取り組みの経験から私がBtoBマーケターに伝えたいのは、全体最適のためのゴール設定を後ろのプロセスから逆算して行うことの重要性です。特にThe Modelのような現代的なプロセスを採用する場合、型だけを模倣すると分業が分断を作る原因になってしまいます。プロセスの最前線にいるマーケティングだからこそ、インサイドセールスの後ろの営業やカスタマーサクセスへの貢献、そして会社全体のビジネスへの貢献を意識してほしいと思います。欲を言えば、お客様のその先にある「エコシステム」の視点を持てると尚良いでしょう。その視点で業務を実践できれば、マーケターは社内で決して孤立しません。
すべてのプロセスの役割と、そこに関わる人たちのKPIを理解することは、すなわちお客様を深く理解することでもあります。「この担当者は何をお客様に提案しようとしているのか」「この担当者は何がわかると嬉しいのか」を理解し、必要としていることを提供するのはマーケティングの基本の「き」です。マーケターがこれからのビジネスに貢献できることは、まだ沢山あると思います。