売り上げの成長につながるメルマガのテクニックを広めたい
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、4月26日に刊行された書籍『現場のプロが教える! BtoBマーケティングの基礎知識』の概要を教えて下さい。
安藤:BtoBの場合、よほど大手でない限り、社内にマーケティング専門のチームを持てる企業はほとんどありません。これは私の肌感覚ですが、8~9割の企業はマーケティング責任者+担当者の2人くらいで動いており、その多くが自己流で実務にあたっているのではないでしょうか。
さらに、メールマーケティングをはじめ、SNSの運用、SEO施策なども行わなければならず、みなさん非常に大変な思いをされていると思います。そんな実務の悩みを持たれている方に向けた、10名の専門家による共著となっています。
MZ:本書の中で安藤さんは、メールマーケティングのパートを担当されていますよね。
安藤:はい。普段のセミナーでは、メールマーケティングの細かいテクニックなどについてお話することが多いのですが、本書では基本的な考え方や捉え方など、時代の流れに左右されない大枠の部分を中心に解説しています。
MZ:メールマーケティングの「エバンジェリスト」として本書に参加されているわけですが、どのようにしてメールマーケティングのプロになられたのでしょう?
安藤:私は2006年にラクスに入社し、営業やサポートなどいろいろな役割を経験した後、2016年に「配配メール」事業部の責任者になりました。以来、今日までずっとお客様からサポート宛てに来る1日300通超のメールにすべて目を通しているのですが、その中で、お客様はみなさん共通の目的を持たれていることが見えてきました。それは、「メール配信は手段であり、それを通して“売り上げの成長”を目指されている」ということです。
メルマガは昔からあるマーケティング手法ですが、ノウハウやテクニックを調べようとすると、多くがひと昔前の情報で最新情報は実は少ない。それならば、売り上げの向上につながるようなメールマーケティングの“勝ちパターン”をお客様や世の中に広めていこうと考えたのです。
当社が2013年頃から運営していた「Mail Marketing Lab(メルラボ)」というオウンドメディアがあったので、これを活用して2017年ごろから情報発信を始めました。すると、いろいろなところからお声がけいただくようになり、セミナーへの登壇やメディアでの取材の機会などが増え、「エバンジェリスト」という肩書きが自然とついていったという流れです。
1人が1通のメルマガに使うのは平均7秒
MZ:書籍では、「読者の態度変容を起こすためのメルマガ配信=メールマーケティング」とされています。従来からの「メルマガ配信」と「メールマーケティング」の違いを教えて下さい。
安藤:有名な企業であっても、メールをマーケティング施策のひとつとして効果的に使えている企業は、実は多くありません。私自身、たくさんの企業のメルマガを登録しており、1日に100通ほどのメルマガが届くのですが、「もったいないな」と思うことがよくあります。
中でもよくあるのは、「読んで理解してもらおう」とするあまり、テキスト量が多くなってしまっているケースです。時候の挨拶から始まり、本題があった後に、編集後記として書いた人の日常が添えられている。これが、いわゆる「従来のメルマガ」です。メルマガ配信を始めてから、ずっとこのような形を続けられている企業も多いのではないでしょうか。これで効果が出る時代もあったのですが、どんどん情報量が増えている今はそうはいきません。
我々の調査では、1人の人が1通のメルマガに使う時間は平均7秒であることがわかっています。文字数でいうと70~140字ほど、Twitterの1投稿分くらいの文量です。つまり、メルマガで態度変容を起こすには、パッと見てすぐにメッセージがわかり、アクションを起こせるようなものでなければいけません。
意外にも「基本」ができていないケースが多い
MZ:安藤さんが「もったいないな」と思うメルマガとは? 詳しく教えて下さい。
安藤:最初に読者の目に入るのは、メールの「差出人名」です。意外にも、この差出人名の設定のところから改善の余地があるケースが多くあります。
基本的に、差出人名は読者が認識している名前であることが大切です。たとえば、シューズブランドのメルマガを登録したら、ブランド名ではなく「スニーカー通信」のようなオリジナルの差出人名でメールが届いた、といった経験はありませんか? 読者はブランド名にしか馴染みがないので、こういったメルマガはそもそも開封されづらい可能性があります。
MZ:たしかに。最も基本的なところですが、私にも思い当たる例がいくつかあるので、見落としがちなポイントと言えそうです。
安藤:そうですね。次は、メールのタイトルについて。読者に自分事として捉えてもらうために【〇〇様へ】などと登録者の名前を冒頭に付けたタイトルをよく見かけますが、実は、このテクニックではそんなに高い効果は見込めません。それよりも、【〇月〇日セミナー開催】のように具体的かつ端的に要件が入っているほうが、開封率は高くなります。
そして、メールを開いた時のファーストビューは非常に重要です。なぜなら、ここにCTAがあるかどうかで成果が大きく異なってくるからです。従来の「読ませよう」とするメルマガだと、最後のほうにCTAが置かれていますが、そこまで読んでくれる読者はごくわずかです。ファーストビューにCTAを置く。これは、鉄板の勝ちパターンなんです。
MZ:BtoBの場合は特に、きちんと説明してからでないとCTAを置いてもクリックされないのでは? という疑問もありそうです。その傾向は、BtoCでもBtoBでも同じですか?
安藤:同じです。セミナー開催の案内についても、トップにCTAのボタンがあるほうが成果は高くなります。また、1つのメールに複数のリンクを置いているメルマガも多いですが、これも見直したほうがよいと思います。メールマーケティングでは、1コンテンツにつき1リンクが鉄則。これもBtoBとBtoCのいずれにも当てはまります。
配信頻度と購読解除に相関関係はない?!
MZ:我々MarkeZineもメルマガを配信していますが、とても耳が痛いです……。どうしても一通に内容を詰め込んでしまう傾向があります。
安藤:1メール1コンテンツにできない理由として、「配信頻度を増やすと、購読解除率が高まってしまうから」という話をよく聞きます。そう考える気持ちもわからなくはないのですが、配信頻度と購読解除率には相関関係がないということが、WACULさんとの共同調査でわかっています。購読解除される原因は、配信頻度が高いこと以上に、その情報に価値を感じられていないことのほうが大きいのです。これを踏まえると、一通に内容を詰め込んで、読みにくい煩雑なメールを配信するより、メールごとに情報を分けて届けるほうが効果が出やすくなることは、みなさん納得できると思います。
MZ:ここまでのお話で、“自己流”で運用されているメルマガがまだまだ多いことがわかりました。
安藤:そうですね。調査の結果を見ると、多くの企業のメルマガ担当者がメール作成に多くの時間を割いているようです。これでは、メルマガ担当者が疲弊してしまうのは、目に見えています。我々が一通のメルマガ作成にかける時間は、長くて30分ほど。それで十分な成果が出ていますから、メルマガ担当者には「自己流から抜け出して、頑張りすぎないでください」と伝えたいです。
自己流のメルマガから抜け出す3つのポイント
MZ:メルマガ運用を“自己流”からアップデートする際、まずどこを見直せばよいでしょうか?
安藤:1つ目は、「目標を細かく・具体的に定量化すること」。売り上げの向上を最終目的にしているとはいえ、「では、毎月何件の資料請求が必要ですか?」と聞くと、明確に答えられないことが多いです。
2つ目は、「配信リストの質」です。大事なのは態度変容を起こす人の数であって、リストの量ではありません。どんな人が態度変容を起こしてくれるかをしっかり分析し、メールアドレスの獲得チャネルで分ける、お問い合わせいただいた時期で分けるなど、質のいいリストを作ることがポイントです。
3つ目は、「配信タイミングの最適化」です。メルマガは、リードナーチャリング施策に分類されることが多いですが、私はメールでナーチャリングするのは非常に難しいと考えています。単純な接触効果がないわけではありませんが、特にBtoBは、検討タイミングに波があります。導入しているツールの更新時期や予算・部署の人数の増減などのタイミングで、自社サービスを思い出してもらうことが重要です。
勝ちパターンを詰め込んだ「配配メール」
MZ:メールマーケティングのプロである安藤さんが考える、「配配メール」の特長は何でしょうか?
安藤:我々は、「どのような機能を実装しているか?」など他社のメール配信システムを見ることはほぼしていません。機能の違いではなく、「クライアント企業がメールマーケティングでいかに楽に成果を出せるか?」にフォーカスしています。
先ほど、自己流のメルマガから抜け出すポイントとして「配信タイミングの最適化」とお伝えしました。しかし、自社の最適な配信タイミングを分析するには、労力と時間がかかります。こうした分析業務から配信担当者を解放するため、今年2月には過去配信したメールから最も開封されやすい時間と曜日が一目でわかるヒートマップを実装しました。
さらに、5月26日にもバージョンアップを行い、我々がこれまで蓄積してきたメールの勝ちパターンを誰でも真似できるように「メール作成セオリーの可視化」機能を実装しました。お客様がメールマーケティングにエネルギーを使わなくていいように、僕らが持つ大量のデータを活かして勝ちパターンをどんどんテンプレート化しています。
また、アフターフォローにも力を入れています。ユーザー向けのセミナーを高頻度で開催しており、昨年1年間だけでもユニークユーザーで1,000社にご参加いただいたほど好評を得ています。
MZ:最後に今後の展望をお聞かせ下さい。
安藤:最終的には、お客様が配信リストさえ用意すれば、あとは全部オートメーションでセグメンテーションから文面作成、配信まで行える。そんな世界を目指しています。現在でもメールマーケティングに挑戦し始めるBtoBの企業様は増えています。それぞれの企業が読者や顧客と良好な関係を築けるように、メールマーケティングを我々の力であるべき姿に近づけたいと思っています。