過去の新規事業の成功が自信になった
高橋 飛翔(以下、高橋):「みんな電力」の創業に至るエピソードで、電車の中で見かけた女性がかばんに付けていたソーラー充電器を見て、その女性から電気を買えたらおもしろいと感じたのがヒントになったと伺いました。私もおもしろい発想だとは思ったのですが、ビジネスとして考えたときに成り立つのかといった不安はなかったのでしょうか?
大石 英司(おおいし・えいじ)
1969年生まれ。大阪府出身。凸版印刷在籍中に電子書籍の取次を行う「ビットウェイ(現:出版デジタル機構)」を起案し事業化する。その後独立し、2011年に再生可能エネルギー電力の小売り事業である「みんな電力」(現: UPDATER)を起業。貧困のない社会を目指し、人と人とのつながりを生む「顔の見えるライフスタイル」を広める取り組みを行っている。
大石 英司(以下、大石):よろしくお願いします。不安はありましたよ! ただ、当時は勤めていた凸版印刷で新規事業を担当していて、「ビットウェイ」というデジタルコンテンツの流通ビジネスを立ち上げた経験があったので、みんなが電気を作れる時代だからこそ、流通する場所があれば売るきっかけになるんじゃないかといった思いのほうが強かったです。
というのも、ビットウェイのプロジェクトを立ち上げた当初は、インターネットは無料の産物だから課金ビジネスなんて成立しないと言われていたんです。でも、一生懸命作ったコンテンツを無料で公開するのには限界がある。そう感じて有料で売れるインフラを作った結果、無料が当たり前と思われていたものが課金ビジネスとして成り立つようになりましたから。
電気は売れる場所さえあれば誰でも参入できるし、たとえばアイドルが作った電気をファンが買うとか、好きな電気を選んで買える仕組みがあれば、ビジネスとして行けるんじゃないかと思ったんですよね。
高橋:なるほど。ビットウェイの経験をもとに、時代に合わせたコンセプトとして行き着いたのが電気だったんですね。
大石:事業において、マーケットの選択はすごく大切ですからね。ちょうど次は何をしようかと考えていた時期で、規模が大きいマーケットの中で誰もやらなそうなことをいくつか検討していました。その中で、電力の小売り事業は一番インパクトが大きいと狙いを定めました。既成勢力が強い分野で一発逆転するという点においても、楽しそうだな、と。ただ、技術的な面から考えないといけませんでしたけどね。
社会性とおもしろさで未来を切り拓く
高橋: 既存のマーケットでできることを考えるのではなく、市場規模や今後の動向を推測して事業を選択したのですね。とはいえ、電気がどうなっていくのかなんて、誰にもわからないじゃないですか。新しいコンセプトを打ち出すときは往々にしてあることですが、見たことのない未来に対して確信を深めるアプローチはどのように取られたのでしょうか。
大石:大きく2つあります。1つは社会性。電気は一部が富を独占している世界なので、分散化することで我々がテーマとしている「貧困の解消」につながり、社会性が上がります。メディアがマスからCGMに移り、SNSとつながることで事業が生まれたように、電気も分散化するプロセスの中に事業機会があるだろうと確信を持っていました。
もう1つは、自分も含めて多くの方がワクワクするようなおもしろさです。電力の小売り事業には、既成勢力の強い世界に挑戦する高揚感とか、もしかしたら好きなアイドルから電気を買えるようになるかもしれないというワクワク感がありますから。
マーケあり!ポイント
・大石さんは、自身の知見が深い既存のマーケットでできることを考えるのではなく、市場規模や業界構造、今後の動向を推測して事業領域を選択している点が非常にユニークです。また、より定性的な要素――すなわち、事業の社会性や既存産業に挑戦していくおもしろさといった、事業が注目されたり、仲間が増えたりするポイントも考慮しながら事業への確信度を深めていることも、0から1を作っていく起業というプロセスにおいては非常に重要であったのではないかと思います。