上海で抱いた危機意識。100年後も愛される企業を目指して
──長年“人を育てる”ということに尽力されてきた室元さんが、人を育てるときに大切にしていることは? 最後に教えてください。
人材育成は、上から目線でやるものではありません。会社という組織で見ると、マネジメントをする立場としての目線も時には必要ですが、一人の“人”として見るときは、そういう見方ではダメだと思っています。大前提として重要なのは、本人の成長意欲です。成長意欲がなければ、いくら研修をやっても効果はなく、本人にとっても時間の無駄になってしまう。部下の成長意欲を刺激して、具体化・明確化させることも上司の役割であると考えています。
私が、デジタル人材の育成に本腰を入れるようになったのは、2017年に上海に行ったことがきっかけでした。おもてなしの文化や快適な環境など、日本が優れている部分ももちろんありますが、ことデジタルに関して言うと、圧倒的に日本が遅れていることを上海で痛感したのです。日本国内、ひいてはこれからさらに大きくなるであろう中国市場やグローバルで愛され続けるためには、これではまったく太刀打ちできない。世界の最前線で太刀打ちできるデジタル人材を育てておかないと、100年後のサントリーが、さらに言うと100年後の日本企業が危ない。そんな強烈な危機意識が、今も私のモチベーションになっています。
部下の成長意欲を刺激するときも、これくらい強いギャップ体験が必要です。たとえば、コロナ禍以降はできていませんが、2017年から10〜20人の社員に向けて上海研修を行っていました。実際に中国のデジタル化社会を体験し、中国の社会や産業構造をデジタルがどう変えたのかを座学で講義すると、みんなやはり衝撃を受けるのです。今まで自分たちが日本でやっていたレベルではない、と。そこではじめて、各々に使命感や成長意欲が勃発します。自分の成長した先のイメージが具体的になっているので、そこから先の成長は非常に速いんですね。このようにして成長のモチベーションを作ってあげることも上司の仕事で、私はこれが一番大事だと思っています。