絶えず変化する購買行動とチャネルの多様化
塚本:生活の様々な場面でデジタルサービスが浸透し、またコロナ禍を踏まえてオンライン化の加速を実感していると思います。
eMarketerが2021年に発表した調査結果によると、メディアの利用時間について、日本ではデジタルとトラディショナルの合計が1日当たり7時間49分。このうちデジタルメディアの利用は約4割の3時間33分です。アメリカやイギリス、カナダ、中国、韓国ではデジタルメディアの利用割合が5割を超えています。
「毎日あるいは週1回、どこで買い物をしたか」については、グローバルでは実店舗が46%、モバイルが44%という結果でした。日本も実店舗での買い物は45%でグローバルと同等ですが、モバイル利用はぐっと下がり、27%と17ポイントも低いです。昨年7月に公開された経済産業省の報告では、2020年度の物販分野におけるEC化率(※)が日本では8%であるのに対して、中国は31%、米国は14%というデータが出ています。
※EC化率=すべての商取引市場希望に対するEC市場規模の割合
これらの数値からも、日本にはまだ伸び代がある、これからさらに伸びていく環境だとおわかりいただけます。それを考えると、ワクワクしますね。
榑谷:EC化率8%は実感値より低い印象がありますね。おっしゃるとおり、オンラインストアの活用は今後も間違いなく凄まじい勢いで伸びていくと考えられます。
塚本:このように、チャネルが多様化し、企業のマーケティングも複雑化しています。とはいえ、やはりお客様を起点にすること、そこを強化していくことに変わりはありません。
本日はこれからのマーケティングにおいてお客様を起点としたブランド体験を実践するためのポイントを、「変わりゆく生活者の動向を理解する」、多様化する環境を考慮して「生活者がいる重要なモーメントでエンゲージメントを築く」、そしてただ築くだけでなく「効果測定の最適化を継続して次の施策に生かす」、という3つの点に焦点をあててディスカッションしたいと考えています。
変わりゆく生活者の動向——購入する場所だけではないAmazon
塚本:増え続ける情報の接点とその多様化によって生活者の行動も変化していますが、これを踏まえて、企業に求められていることは何だと思いますか?
榑谷:オンラインとオフラインが限りなく融合し、あらゆる企業の顧客接点がデジタル化してきた印象があります。そのため企業はお客様を理解し、適切なコンタクトポイントの設計をしていく必要があると思います。
塚本:適切なコンタクトポイントという観点で見ると、Amazonは、単なるオンラインストアではなく、「ブランド認知をする場所」としてお客様が利用する傾向があります。たとえば「商品を調べる/発見する」場としてAmazonを利用しているケースは75%で、特定のブランドや商品名でなく「ビール」「水」「洗剤」といったビッグワードで検索している人は78%に上ります。もともと購入予定はなかったものの、予想外の新商品を見つけて購入したお客様も74%います。
また、消費財購入者の35%、耐久財購入者の37%が「実店舗での購入前にAmazonで詳細を調べる」と回答していることに注目しています(2020年3月調査。委託先:マクロミル)。Amazonでブランドがお客様にリーチしてオフラインで買う場合もあるなど、まさにフルファネルマーケティングを象徴する調査結果だと思います。
榑谷:オンラインストアにおいてビッグワード検索が78%というのは驚きですね。しかし、自分の行動を振り返ってみると確かに納得できました。私の場合は自宅で楽しむ洋酒を購入するときに新しいジャンルに挑戦しようと思っても、銘柄がわからないので「ジン」などお酒の種類で検索しています。初めてのブランドでもレビューを参照するので、不安なく試せています。
Amazon上のショールームをきっかけに生活者とつながる自動車ブランド
塚本:生活者は検索する内容やそのときの状況に応じて、オンライン/オフラインを使い分けて行動していますよね。ですから、商品やサービスを購入する場所は必ずしもAmazonである必要はないと考えています。Amazonでブランド広告を見て実店舗で購入するお客様もいるでしょうし、屋外広告を見てAmazonで購入するというケースもあると思います。
自動車ブランド「ヒョンデ」は、意思をもってAmazonを訪れるお客様とつながり、高いエンゲージメントを築いています。アメリカではAmazon上で自動車のショールームを展開する企業が複数います。ヒョンデのショールームでは、オンラインでモデルや色をカスタマイズして見積もりを依頼できます。
開始1カ月で、AmazonのショールームからヒョンデのWebサイトにアクセスしたお客様が約100万人に達し、Webサイトでのエンゲージメントタイムは142%増加。サイトのスクロール率も、自動車業界のコンテンツの平均スクロール率は58%であるのに対して、90%を記録しています。それだけお客様のニーズがマッチしているといえます。
生活者環境に合わせたキャンペーン施策
塚本:Amazon Adsはオンライン/オフラインの境目なく、生活者が自らの意思で滞在する“場所”でしっかりとブランドメッセージを作っていきたいという思いがあります。
『日曜日の初耳学』(MBS毎日放送)というテレビ番組では、電通様と協業して、Amazon.co.jpと連動したインフォマーシャルを実施しました。インフォマーシャルのなかに二次元バーコードを設置し、Amazon.co.jpのキャンペーンサイトに直接アクセスできる取り組みで、対象ブランドの認知から検討、購買までフルファネルでの効果が確認できました。
高い売上リフトが見られ、新規顧客の獲得率も急上昇、またインフォマーシャル対象商品の閲覧数もオンエアのタイミングで急上昇しました。キャンペーン関連商品の検索数も急上昇し、認知度アップにも貢献できたと考えています。今後このような組み合わせの施策は増えてくると思いますが、榑谷さんはどう見ていますか?
榑谷:テレビや新聞雑誌、ラジオなどのトラディショナルなメディアと、デジタルの良いところを組み合わせて展開する施策は非常に効果的な手法だと思います。
塚本:また、これまでにアサヒ飲料の「ウィルキンソン」ブランドのキャンペーンも支援しています。ソバーキュリアスという、あえてお酒を飲まないライフスタイルを提案する特設ページを開設して、ノンアルコールドリンクのレシピなどを公開しながらキャンペーンを展開しました。結果、Amazon Adsを使って1,900万人にリーチし、ページ閲覧数は30万PVを記録。Amazonを訪れるお客様に、「ライフスタイル提案」を展開した好例です。
榑谷:Amazonは既に生活者にリーチするメディアとして大きな存在感を示していますね。購入だけでなく、ブランドエンゲージメントを高める場を提供していると感じます。
コンテンツ体験はそのままに、瞬間で生活者にリーチ
塚本:エンゲージメントを高める点では、最近、Amazonに販売導線がない新しい取り組みを電通様と一緒に実施しましたね。4月9日にPrime Videoで中継した村田諒太選手vsゲンナジー・ゴロフキン選手のボクシング試合を皮切りに日本で開始した、Live Sports In-Stream広告です。ボクシングのスポーツライブでは試合やラウンド間でインターバルが発生するので、その瞬間を活用して広告を展開しました。結果、85%の方に広告を受け入れていただいており、ブランド好感度の上昇も非常に高いことがわかりました(※外部調査、4/9第一回ボクシングイベントについての調査、電通マクロミルインサイト調べ、2022年4月実施) 。
榑谷:日本のPrime Videoにおいて初の試みでしたが、視聴の様子を見るとインターバルCMの動き方は地上波放送とまったく同じでした。多くのお客様が広告を許容してくださっており、リーチも予想をはるかに上回る水準でした。非常に可能性を感じます。
様々なメデイア消費に寄り添うために
塚本:これまで生活者を理解し、生活者のいる場所でエンゲージメントを構築することが大切という話を展開してきました。Amazon Adsではこの考え方をさらに進めて、生活者とのつながりを築くには効果測定を最適化して、それを継続していくことが必要だと考えています。電通様はこれまで多くの企業のマーケティングを支援されていますが、マーケティングROIについて、榑谷様がどのような考えをもっているかお聞かせください。
榑谷:マーケティングROIの向上は非常に重要です。そのためには、まず0次分析でお客様の行動と心理を可視化するところからPDCAを回さなくてはなりません。そこで、適切なKPIを設定する必要があります。マーケティング課題に応じて、CTRかLTVか、それともROASなのか……と考える必要がありますし、さらに言えばカスタマージャーニーを包括的に捉えつつ、オンラインのメディアだけではなくオフラインメディアでの接触や、オンラインショップだけではなくリアルな購買を含め、解像度を高めなくてはなりません。
そのために必要なことは、商売の都合や思い込みにとらわれず、お客様に徹底的に寄り添うこと、一言でいえば「メディアニュートラル/ソリューションニュートラル」なプランニングです。
塚本:ソリューションニュートラル/メディアニュートラルという言葉をよく耳にします。昔は影響力の強い媒体が限られていましたが、現在は多様な選択肢から選ぶ必要がある時代です。だからこそ、ニュートラルな視点でメディアを組み合わせていくということでしょうか?
榑谷:そのとおりです。新聞、雑誌、ラジオ、そしてテレビが登場してきた時代は、マーケティング目標は「大量生産・大量消費」であり、マスリーチが正解でした。しかし環境が変わり、新しいメディアが次々と登場してくるようになり、ソリューションニュートラル、メディアニュートラルなスタンスを強く意識しなくてはならなくなった、そのように変化したと考えています。
塚本:何か1つのメディアに依存している生活者は少なくなっていますよね。自分の好きなものを自分の意思で選ぶビュッフェ型メディア消費にシフトしています。
このような環境下で、私たちはAmazon Marketing Cloud(以下、AMC)というソリューションが広告主様や広告企業様の役に立つと考えています。Amazon Adsのデータセットを活用して、Amazonの広告プロダクトを横断的に分析して効果を確認できます。認知効果に最適なディスプレイやカスタム広告と、Amazonの販促で活用されるサーチ広告を併用して、購入に至るまでにどの組み合わせだと効果を最大化できるのか分析できます。
また自社のデータセットを活用いただくことで、より深い分析も可能です。たとえば、CM視聴者のデータセットをお持ちであれば、Amazon Adsのキャンペーンデータと組み合わせてAmazonのオンラインストア上での購買行動も分析できます。Amazon Adsでは、このように広告効果を深く広く掘り下げて把握していくソリューションにも注力していく予定です。
正確な成果を可視化し、PDCAを回す
塚本:電通様ともAMC分野で協業していますが、この分野についてどのような方針を立てていますか。
榑谷:私ども電通グループでは、クライアント企業の「マーケティングROIを向上させたい」というニーズと、生活者のプライバシー意識の高まりを踏まえ、2016年より様々なパートナー企業とデータクリーンルームの開発に取り組んできました。
2021年度に手掛けたプロジェクトは450件を超えており、グローバルで見てもトップクラスだと自負しています。Amazon Adsのデータクリーンルームにおいては、Amazon上での購買行動、あるいはメディア接触行動に加え、リアル店舗での購買データも連携させていく方向を見据えております。まずはPontaと提携を開始し、日本で初めて実データを用いてリアル店舗とAmazon購買の効果検証や顧客理解の分析が可能となります。
事例として、PCメーカー等のキャンペーンでAMCのデータクリーンルームを活用しました。通常のキャンペーンでは広告接触後14日間の購買データしか確認できません。しかし、高価格帯の商材ほど一般的に、購買検討には時間がかかります。そこでAMCを活用して計測範囲を28日間まで広げたところ、14日間までのデータと比べてコンバージョンが1.6倍だったことが判明しました。AMCを活用したことでキャンペーンの成果の透明度や解像度が向上したといえます。
塚本:実際の広告効果を理解してから、PDCAを回していくことがいかに重要かという事例ですね。1.6倍という数字はビジネス上、非常に大きな違いです。成果の可視化を継続し、実際の成果とずれないように施策を展開していくことが大切ですね。
企業の持続的な成長にコミットするために
塚本:Amazon Adsはクライアント企業の事業に貢献し、ブランドが持つ課題に対応していきたいと考えています。そのためにも、Amazon Adsのソリューションに広告会社独自の強みを加え、最適なサービスを共に提供していくつもりです。電通様は次のステップに向けて、どのような構想を描いていますか。
榑谷:電通グループは「Integrated Growth Partner」として、あらゆる顧客接点の創造とそれを支えるデータテクノロジー基盤の構築、そして前提条件になるビジネスデザインまで包括的・統合的なソリューションを提供していく構えです。
長年培ってきたクリエイティブ、顧客理解を深めるアナリティクス、そして実際に企画を実施する実行力、さらにデータテクノロジー基盤を組み合わせ、クライアント企業のイノベーション創出に貢献することで、企業の持続的な成長にコミットしていくことが大きな役割だと考えています。
塚本:私たちも同じ思いを持っています。
刻々と変化する生活者の動向を理解し、重要なモーメントを捉えてカスタマーエンゲージメントを築き、その効果測定を継続することが大切です。最終的に商品を購入する場所は、生活者が決めることです。生活者が望んで滞在する環境で最適な体験を提供していくことこそ、これからのマーケティングにおいて最も重要だと考えています。榑谷さん、本日はありがとうございました。
榑谷:ありがとうございました。