パーパスを実現できる会社・組織を目指して
――課題解決に向けて、具体的にはどのような取り組みを?
大きく分けると、事業変革と社内変革の2軸で考えており、最初に取り掛かったのは社内変革のほうでした。富士通には、社内変革を推進する「フジトラ(Fujitsu Transformation)」という全社プロジェクトがあります。ここでは様々な部門の社員がリーダーとなり、約150のプログラムを同時に走らせているのですが、その中でグローバルマーケティング部門がリードしているものの一つが「VOICEプログラム」です。
「VOICEプログラム」は、CXとEXの両方の視点から富士通が取るべきアクションを考えていくという取り組みです。EXは人事部主導で、社員がどのようなことを思い・考えているのかをデータで分析し、それを活かす・改善するような施策を小さく実験しています。我々がリードするCXは、お客様が富士通に対してどのような期待感を持っているのか、あるいは様々な社会問題に対してどのようなことを考えているのか、などといったお客様の声をデータで集め、分析して、やるべきアクションにつなげています。仕組みとしては、日本のみならず世界4地域にCXリーダーを置き、お客様の声から抽出した課題や洞察についての具体的なアクションを、そのCXリーダーを通じてデータをもとに議論していく形です。最終的には、社長直下の役員メンバー全員が四半期に一度集まり、富士通として目指す方向性と照らし合わせながら、実行するアクションを決定しています。
また、パーパスを社内に浸透させていくために行っている「パーパスカービング」もフジトラの取り組みの一つとしてあります。これは、自分自身の存在意義を削り出して、会社の存在意義と結びつけるという活動で、グローバルで約13万人いる社員全員が行っているものです。日々仕事に追われていると、自分が何のために働いているのか、どうしても忘れてしまいがちです。このパーパスカービングを通して、会社のパーパスを自分ごととして捉えられるようになったり、目の前にある仕事と自分または会社のパーパスを結び付けて考えられるようになったりする。私はこのことに、とても意味があると思っています。
――事業変革の取り組みとしては、新事業ブランド「Fujitsu Uvance(フジツウ ユーバンス)」のローンチがありました。
はい。これまでは、ものづくりが先にあって、その先にブランディングなりマーケティングがあるという形でした。ですが、「Fujitsu Uvance」は、全社で事業変革を進め、パーパスを実現するために立ち上げており、これまでとはまったく違う位置づけになっています。
ここで改めて、富士通のパーパスは「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」です。これを起点に「FujitsuUvance」は、サステナブルな世界の実現を目指し、社会課題の解決にフォーカスしたビジネスを推進する事業ブランドとして2021年10月に立ち上げました。ちなみに、ブランド名は「Universal」と「Advance」を掛け合わせた造語で、これもフジトラの仕組みを用いてグローバルの社員による投票で決定しました。
こうした様々な取り組みを経て、実際にブランド価値が上がっていることも確認できています。インターブランド社のBest Japan Brandsにおける評価によれば、2020年は7億9,700万ドル、2021年は9億3,400万ドル、2022年は10億7,100万ドルと、富士通のブランド価値はこの2年で確実に向上しています。
――抜本的に変革を進めていく中で、改革者として大事にしていることは?
「マーケティングって、なんかフワフワしているんだよね」「数字を持っていないからいいよね」――私自身、こういった言葉をかけられる度に悔しい思いをしてきました。特にBtoBのマーケティングは、売り上げのきっかけを作ることはできても、直接貢献することは難しい。だからそんなことを言われてしまうわけですが、それゆえに私が大切にしているのは、やり抜く力、グリット力です。マーケティングでも、社内改革でも、やり抜くことを自分の重要な価値観として持っています。