今、企業の注目を集める「ウェルビーイング」
今回紹介する書籍は『Kawaii経営戦略 幸福学×心理学×脳科学で市場を創造する』(日本経済新聞出版)。著者は、企業のマーケティング活動を支援するPwCコンサルティングでディレクターを務める髙木健一氏と、「カワイイ」文化をけん引するサンリオエンターテイメント代表取締役社長兼サンリオピューロランド館長の小巻亜矢氏です。
近年、「幸せ(ウェルビーイング)」がサステナビリティと密接に結びつくテーマとして世界的なトレンドになっています。マーケティングでも、「幸せ」を起点としたパーパス経営をコンセプトに掲げ、ステークホルダーの社会的価値と、LTV(顧客生涯価値)といった経済的価値の両輪で、持続的な競争優位性の構築を目指す企業が増えてきています。
では企業は、どのようにして「幸せ」という視点を取り入れ、自社のマーケティングに活かしていけばいいのでしょうか。
「Kawaii」が持つ5つの感情とは?
本書によると、PwCコンサルティングの調査では幸福度が高い人は消費意欲が高く、新しいもの好きで、熱狂度が高く、社会課題に関心を持つ傾向にあることがわかっています。その結果を踏まえ、著者は以下のように述べています。
「顧客の幸福度を高めることは、顧客が企業や商品・サービスに熱狂すること、つまり、企業とより密接な関係を築くこととなり、より多くの購買行動を行い、結果的にLTVを最大化させることに繋がりうる」
このような幸福度を高め経済的価値・社会的価値を実現する三方よしの経営を実際の施策に落とし込むうえで、「Kawaiiが競争優位の源泉を構築する上でのキーコンセプトになりうる」と言います。
本書ではこの「Kawaii」について、以下の5つの感情を持つものだと説明されています。
1.幸せにつながる感情:自分自身や身近な人をKawaiiと思い、思われている人は幸福度が高い
2.身近な感情:性別年代を問わずKawaiiという感情を日常的に抱く
3.心理的安全性に関わる感情:心理的安全と親和性が高い感情である
4.多様かつインクルーシブな感情:「ダサい」など一見ネガティブな意味も包含する
5.日本発の感情:正確に対応する多言語の単語がなく、「Kawaii」のままで世界に広がっている
これらからわかるように「Kawaii」は、身近に存在し多様な意味を含む感情です。「幸せ」を起点とした企業経営を実現するために、企業は「Kawaii」をどう表現していくのかが重要なポイントであると本書では述べられています。
サンリオの理念を表現する、個性豊かな「Kawaii」キャラクター
企業が「Kawaii」がビジネスを切り開く事例として、2021年から「Kawaii」に関する共同研究を行っている、サンリオエンターテイメントのキャラクタービジネスを紹介。同社は世界に「Kawaii」を発信し、ハローキティをはじめとするキャラクターたちが企業理念「みんななかよく」を体現しながら、事業を通じて人々の「幸せ」を目指しています。
この「Kawaii」による世界的なビジネスを築き上げたポイントとして、「パーパスを実現する多様なKawaii」を挙げています。サンリオエンターテイメントには450を超える数のキャラクターが存在。それぞれの個性を活かしてバラエティに富んだ「Kawaii」を表現しています。
同社はキャラクター展開を丁寧に行うことで、各キャラクターの個性やストーリー、メッセージ性をファンの間に根付かせ、愛されています。「Kawaii」をマーケティングに組み込むことで、現在はよく耳にする「推し活」なる購買行動を表す言葉が生まれるよりも前から、このようなキャラクタービジネスを同社は展開してきました。それは、毎年盛り上がりを見せるファン投票イベント「サンリオキャラクター大賞」(1986年に開始)にも表れています。
この他にも「Kawaii」をビジネスに効果的に活かした事例が多く紹介され、中には中高年男性(いわゆる“おじさん”)やロボットなど、一見「Kawaii」とはかけ離れたプロダクトもあります。前述の通り、「Kawaiiは多様かつインクルーシブな感情」なので、企業がビジネスに組み込むうえでも広い使い道のあるコンセプトなのです。
本書は事例だけでなく市場や顧客の分析、CX設計、組織戦略、データアナリティクスの手法や指標なども扱い、「Kawaii」のビジネス活用をあらゆる角度から解説しています。自社のブランドの持つ世界観やパーパスを表現する方法のヒントを得られる一冊、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。