感性とロジックを共存させる「KANDO DRIVEN CREATIVE」とは
資生堂クリエイティブのケイパビリティは、ブランドの課題も社会の課題も包括し、すべてを“美の体験”を通して解決していくことにある。資生堂のブランディング、マーケティングなどのブランド課題だけでなく、サスティナビリティやユニバーサルデザインなど環境・社会の課題解決も捉え、そこに“美”を掛け合わせることで、独自の美の体験価値を創造していく、という考え方だ。
「この“美の体験価値”とは、ひとことで言うと、そこに触れた人々を感動させるものです。“美の体験”を通じてブランドと人々を繋ぎ、世界中の人々の心を豊かにしていく。これは私たちの使命でもあります。そして、資生堂クリエイティブには、そこへのアプローチ方法として『KANDO DRIVEN CREATIVE』と名付けているものがあります」(川合氏)

KANDO DRIVEN CREATIVEは、マーケティング領域から始まる。マーケティングリサーチから生活者情報を掘り出し、ブランド戦略・プランを策定。これと並行して、クリエイティブの領域でもデザインリサーチを行い、生活者の感性的なインサイトの掘り起こし、クリエイティブストラテジーの策定を行う。「マーケティング・インサイト=ロジック」と「クリエイティブ・インスピレーション=感性」、そして「美とモノづくりを追求する資生堂のクラフトマンシップ」を掛け合わせることで、生活者の五感に訴えかけるような美の体験、感動を生み出すことを目指すという。
また、このように感性とロジックが共存できているのも、資生堂クリエイティブならでは。これには、製品・ブランドを開発する時、かなり早い段階からマーケティング部門、研究部門、生産部門、クリエイティブ部門で情報を共有し、アイデアを出し合ったり、課題抽出を行ったりする組織環境が寄与しているそうだ。

マキアージュでは、1つのアイデアが「商品企画」から「デジタル施策」まで
川合氏は、資生堂クリエイティブが考える体験デザインの作り方について一通り話した後、具体的なクリエイティブ事例を3つ紹介した。
1つ目に紹介したのは、メイクアップブランド「マキアージュ」の事例。1つのアイデアが商品企画からプロダクトデザイン、デジタル施策にまで広がり、総合的なコミュニケーションを作り上げることができたプロジェクトだったという。

「通常、アイカラーパレットは4色1組で売られています。どうしても好きな色だけ使って、使いにくい色は使わないため、4色が均一に減らないという課題がありました。お客様が好きな色だけ買えるよう単色売りを考えていた中で、『ショコラを選ぶのって楽しいですよね。そういう気持ちで好きな色とか旬な色を選びながら、自分だけのパレットを作れたら……』というアイデアが出てきた。アイカラーをショコラのように見せるには高度な生産技術が必要でしたが、各部門の試行錯誤により、このアイデアを実現させることができました」(川合氏)
具体的には、ブランドのターゲットが好みそうなショコラを研究し、「ミントショコラ」「ショコラオランジュ」「モカトリュフ」「フロマージュガナッシュ」などおいしそうなネーミングを開発。店頭のPOPや各種ビジュアル、ムービーなどのコミュニケーションツールも、ショコラを選ぶ楽しさを表現するという世界観のもと制作していった。さらに、「アイカラープレーヤー」というデジタル施策も展開。ここでは、購入前に好きなカラーでパレットを作り、そのカラーの組み合わせによって自分だけの音楽を作ることができるというデジタル体験を提供した。パレットの組み合わせは全部で12,000通り以上。アイカラーパレットと音楽にメッセージを添えて友だちや家族に送ったり、SNSでシェアしたりできる機能も用意した。この背景には、ちょうどコロナ禍に突入したタイミングで、なかなか会えない家族や友だちと繋がりを持てるコンテンツにしたいという思いがあったという。

このほかにも、資生堂パーラーとコラボレーションし「マキアージュショコラ」を発売するなど、様々なタッチポイントでブランドを体感できるようなコミュニケーションを展開。アイディエーションで思考を広げ、各タッチポイントで五感を揺さぶるような体験を提供する――まさに「体験デザイン」と呼ぶことができる一例になったと川合氏は話した。