総合的に商品体験を追求する。資生堂で受け継がれている哲学
「商品をして全てを語らしめよ」。これは、資生堂 初代社長 福原信三の言葉である。民間洋風調剤薬局として創業した資生堂が化粧品事業を主体に置いて活動を始めた1915年から現在まで、DNAとして脈々と受け継がれている資生堂の精神だ。「商品そのものだけでなく、ネーミングやパッケージ、広告、店舗設計などすべてを包括的に捉え、資生堂が社会で果たすべき使命やモノづくりを追求する」という意思が込められている。
そして、2022年1月、その資生堂ですべてのクリエイティブを統括してきたクリエイティブ部門が本社から分社化する形で「資生堂クリエイティブ株式会社」が誕生した。「ブランドと人を結びつけ、美を楽しむ体験を創造し、人々の心を豊かにする」というミッションのもと、資生堂のブランディングを強力にサポートする役割を担っている。
2022年9月7~8日にMarkeZineが開催したオンラインイベント『MarkeZine Day 2022 Autumn』に登壇したのは、資生堂クリエイティブのProduct Creative Directorとして、「エリクシール」や「ベネフィーク」「アクアレーベル」のクリエイティブディレクションを担当する川合加奈子氏。「クリエイティブで人とブランドをつなぐ。資生堂クリエイティブが考える、これからの体験デザインの作り方」という講演タイトルのもと、いくつかの事例を交えながら、資生堂クリエイティブならではの体験デザインの作り方を紹介した。
より良い体験価値の創造には、マーケティング×クリエイティブのシナジーが欠かせない
資生堂クリエイティブを構成するのは、プロダクトデザイナー、コミュニケーションデザイナー、スペース(店舗空間)デザイナー、フォトグラファー、コピーライター、モデルキャスティングなど様々な領域で活躍する総勢100名ほどのプロフェッショナルたち。それぞれの専門領域を掛け合わせることで、プロダクトデザインから店舗空間、コミュニケーションまで、ブランドと消費者をつなぐすべてのタッチポイントで一貫した体験デザインを創造していく。
すべてのチャネル、すべてのタッチポイントを含むカスタマージャーニーの中で、消費者にどのような体験をデザインしていくか――これについては、読者も日々試行錯誤しているところだろう。体験デザインの創造にクリエイティブは欠かせないが、マーケティングとクリエイティブの間には、いささか距離があることも多い。これについて、川合氏は次のように自身の考えを話す。
「包括的な体験デザインを作り出す過程において、マーケターとクリエイターが一緒にプロジェクトを進めることは多々あると思います。この時、両者で視点や考え方が違うために、意見が食い違う、うまくコミュニケーションできないといったこともあるでしょう。しかし、よりよい体験価値の創造には、マーケターとクリエイターが生み出すシナジーが絶対に欠かせないと私は考えています」(川合氏)
では、実際に資生堂クリエイティブでは、どのように体験デザインを作っているのか。川合氏は、もう少し掘り下げて、資生堂クリエイティブの体験デザインの考え方について話を進めた。