人々が知らぬ間に、身近な存在になりつつあるAI
今回紹介する書籍は『AIと人類』(日本経済新聞出版)。
著者は、2001年から2011年までグーグルのCEO、その後2018年までグーグルの会長を務めたエリック・シュミット氏と、元米国国務長官のヘンリー・キッシンジャー氏、MITシュワルツマン・カレッジ・オブ・コンピューティング初代学部長でアマゾンの取締役なども兼任するダニエル・ハッテンロッカー氏です。
昨今、話題となる機会も増えてきたAI。実は生活者の知らない様々な領域で、着実に活用の場を広げています。
同書の冒頭でAIは、「特定の産業ではなく、もちろん単一の製品でもない。独立した『ドメイン(学問領域)』でもない。多くの産業、(中略)広告、芸術、文化など私たちの生活のあらゆる面において、その可能性を広げる要因だ」と示されています。そんなAIは今後、人々の生活にどのような影響を与えるのでしょうか?
AIがネットワークプラットフォームにもたらした変革
AIを人間の基本的活動に組み込む担い手として、GoogleやFacebookなどが挙げられ、それらを「ネットワークプラットフォーム」と言います。このネットワークプラットフォームは国境を越えて膨大な数のユーザーを集め、AIと人間との接点を創出しているのです。
ネットワークプラットフォームの中でAIが重要な役割を持つ機能の一つが、Googleの検索エンジンです。かつては情報の整理やユーザーの誘導には、人間が開発・修正したアルゴリズムが利用されていました。そんな中で起きたターニングポイントについて、本書では以下のように述べられています。
二〇一五年、グーグルの検索チームは、こうした人間が開発したアルゴリズムから機械学習へと移行した。それが分水嶺となった。AIを搭載することによって検索エンジンはそれまでより的確に質問を予測し、正確な結果を用意できるようになり、サービスの品質や使い勝手は大幅に向上した。(中略)とはいえ、その開発者はなぜ検索から特定の結果が生じているのかを比較的ぼんやりとしか理解していなかった。
今後のAIの発展に向け、人間が考えるべきこととは?
先の事例から、AIが機械学習によって利便性と正確性を向上させるのと同時に、人間の手を離れ理解が及ばない部分が存在するようになったことがわかります。
しかしエリック・シュミット氏らが「ソーシャルメディア、ウェブ検索、動画ストリーミング、ナビゲーション、ライドシェアをはじめとする多くのオンラインサービスは、AIを徹底的に活用し、その範囲を広げることで初めて成り立っている」と指摘するように、現在の生活では理解の可否に関わらず、人々の生活に関わる様々なサービスがAIに依存しています。そしてAIの力によって、今やネットワークプラットフォームは身近な生活だけでなく、国境を越え地球規模で影響力を持つ存在となりました。
一方でその発展の速さから、運用や規制などで議論の土壌が整っていない危うさがあると本書は指摘しています。たとえばSNSを騒がせるデマやフェイク画像とその規制問題など、既に課題が生じています。
こうした状況に対しシュミット氏らは、AIと人間は「互いの関係性について正しく理解したうえで結論を出すためには、共通の判断基準をつくらなければならない」と述べ、そのために「現在個人や組織の行動に課せられているようなルールを策定すべき」とし「それはAIという技術の性質だけでなく、それが引き起こすさまざまな問題も反映したものでければならない」と警鐘を鳴らしました。
本書では、ネットワークプラットフォームの他にも、AIにつながるこれまでの技術の歩みや人間とAIのこれからのパートナーシップについて考察します。デジタルマーケティングと切っても切り離せないAIという存在について知り、考えをもっと深めたい方はぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。