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PMF(プロダクトマーケットフィット)とは何か? PMFのシグナルとそうでないシグナルを見極める

 新規事業やスタートアップにおいて、最も重要なことはプロダクトやサービスがPMF(プロダクトマーケットフィット)しているかどうかだと言われます。PMFしている状態とは「顧客のニーズを満たす商品で、正しい市場(潜在的な顧客がたくさんいる市場)にいること」だと、才流の栗原康太さんは著書『新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書』(翔泳社)で書いています。今回は、これまで数々の失敗と成功を経験してきた栗原さんがPMFするためのノウハウを解説した本書から、PMFの定義やPMFしているシグナルの見極め方、そして事業アイデアの立案からグロースまでの道のりを示すフィットジャーニーの概要を紹介します。

 本記事は『新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書 良い市場を見つけ、ニーズを満たす製品・サービスで勝ち続ける』から一部を抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。

PMFの定義

 PMF(Product Market Fit:プロダクトマーケットフィット)の考え方は、世界有数の投資会社であるAndreessen Horowitzの創業者、マーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)氏のブログ記事「The only thing that matters」によって広められました。アンドリーセン氏はベンチャーキャピタリストとしてさまざまな企業を見てきた中で、PMFが企業の成否を左右する要素だと指摘しました。

 アンドリーセン氏は同ブログ記事の中で次のように語っています。

重要なのはプロダクトマーケットフィットに到達することだけだ。プロダクトマーケットフィットとは、市場を満足させることができる商品で、正しい市場にいることを意味する。

出典:https://pmarchive.com/guide_to_startups_part4.html(著者訳)

つまり、顧客のニーズを満たす商品で、正しい市場(潜在的な顧客がたくさんいる市場)にいることをPMFと定義しています(図1-1)。

PMFの概念図
図1-1 PMFの概念図

 続けてアンドリーセン氏はPMFの兆候として以下のような状態を挙げています。

あなたが製品をつくるスピードと同じスピードで、顧客は製品を買っている、またはあなたがサーバーを追加するのと同じスピードで利用が拡大している。顧客からのお金があなたの会社の預金口座に積み上がり続けている。あなたが可能な限りのスピードで営業パーソンとカスタマーサービス担当者を雇っている。つまり、あなたが顧客からの膨大なリクエストについていけないとき、あなたはPMFに達しているといえる。それはたいていの場合、製品を維持しながら走り続けるだけで手一杯で、製品に大きな変更を加えることさえできなくなるような状況だ。

出典:https://pmarchive.com/guide_to_startups_part4.html(著者訳)

 また、Squareに買収されたWeeblyの創業者デイヴィッド・ルセンコ氏はPMFを次のように表現しています。

PMFが見つかる前は大きな岩を押しながら山を登っている状況だが、PMFを見つけた後は山頂を越えて大きな岩が転がるのを追いかけている状況である。

出典:https://www.youtube.com/watch?v=0LNQxT9LvM0(著者訳)

 個人的にはこちらの説明の方がしっくりきています。図1-2のようにイメージできます。PMFがある商品は、商品が顧客に引っ張られるように売れていき、顧客が商品を使い続けてくれたり、口コミをして他の顧客を連れてきてくれたりします。一方、PMFがない商品は、広告を出稿しても申し込みがなかったり、営業パーソンが必死に売り込みをかけたりしても発注をもらうことができず、商品を使った顧客が満足しません。

図1-2 PMFの前後の状況の変化
図1-2 PMFの前後の状況の変化

PMFしている状態とは

PMFしたときの生の声

 概念の説明だけではわかりづらいと思うので、実際にPMFしている事業の事例を見ていきましょう。

 たとえば、グループウェア「サイボウズ Office」シリーズなどを手掛けるサイボウズ。同社の初期の投資家であるインキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹氏への取材の中でCoral Capitalの西村賢氏は以下のように語っています。

初期のサイボウズは全国から届く有料ライセンス申込書のFAXが止まらなくて、ロール紙が床にとぐろを巻いていたと、初期メンバーだった人に聞いたことがあります。

出典:日本の失われた30年を変えるのはVC―、先駆者・赤浦氏が語る独立系VCの歴史と未来(前編)(https://coralcap.co/2020/11/interview-with-toru-akaura/

 また、評価額1,700億円を超え、SaaS企業の実質的な売上高に当たるARR(Annual Recurring Revenue:年間定期収益)が45億円(2021年6月時点)と急成長しているSmartHR。創業者の宮田昇始氏はあるインタビューの中でSmartHRに対する市場からの引きがいかに強かったかを語っています。

Facebookで人事・労務の担当者にターゲティングした事前登録用の広告を出しました。予算2万円で。まだプロトタイプすらできていないときだったんですが、広告を止めてからもクチコミで登録が増え続け、1か月で200名くらい集まりました。

出典:現場が語る、BtoBマーケの最前線~人が欲しいと思うものを、まずつくる~株式会社SmartHR 宮田社長の視点(https://ferret-plus.com/14821

 片づけコンサルタントとして世界的に有名な近藤麻理恵さん。通称・こんまりさんの公私のパートナーである川原卓巳氏はある対談で、こんまりさんが提供する仕事に対する顧客ニーズの強さを語っていました。

知らない人からも「お金を払うからやってほしい」とオファーが来るようになって、19歳から「片づけコンサルタント」と名乗り始めるんです。(中略)就職してからもオファーは絶えず、2年後には独立。すると、あっという間に半年先まで片づけレッスンの予約が埋まるようになったそうです。

出典:尾原和啓×川原卓巳「DXの次はEXの時代が来る!」(https://diamond.jp/articles/-/277889

PMFしたときのシグナル

 PMFしたときは明らかにそれとわかり、PMFしているかどうか疑問に思っている時点ではPMFしていない、といわれます。まとめると、PMFしたときは以下のようなシグナルがあるようです。

PMFシグナル
□顧客からの問い合わせが殺到する
□異様に低い金額で問い合わせや受注が獲得できる
□顧客からの機能要望に商品開発が追いつかない
□サーバーを増強しても、すぐにサーバーが止まってしまう
□事業の成長に採用が追いつかない
□予算を使っても使っても、利益が出てしまう

 もう少し具体的に、PMFしている商品の営業のシグナル、マーケティングのシグナル、その他のシグナルに分けて示します。

営業に関するPMFシグナル
□商談から受注までの期間が短い
□受注数が伸びていて、解約も少なく、顧客が満足している
□比較的ジュニアな営業パーソンでも、受注できている

マーケティングに関するPMFシグナル
□低いCPAでリードを獲得できる
□顧客獲得コストが低く、十分な利益が出ている
□プレスリリースを配信したところ大きな反響があった
□顧客が満足しており、事例インタビューを快諾してくれる
□特別な販促活動をやらなくても、噂を聞きつけた顧客からの問い合わせがある

その他のPMFシグナル
□顧客に提供できる価値を明確に説明できる
□競合に比べて選ばれる理由を明確に説明できる
□顧客からの喜びの声が届く
□顧客が他の顧客を紹介してくれる

 PMFしている商品は、市場・顧客から強い力で引っ張られます。派手に宣伝し、無理に売り込もうとしなくても、口コミで商品が広がり、顧客が買いたい、お金を払いたいと申し出る。PMFを達成すると、このような嘘のような本当の現象が起きます。

 一方で、PMFしていない商品にもシグナルがあります。こちらも営業、マーケティング、その他に分けてシグナルを示します。

営業に関するPMFしていないシグナル
□商談から受注までの期間が長く、見込み客の検討の熱量が低い
□受注数は伸びているが、解約率が高く、顧客が喜んでいない
□ 営業研修/トレーニングを行い、営業力を強化しても受注率が上がらない

マーケティングに関するPMFしていないシグナル
□プロモーション予算を投下するとリード数は増えるが、受注につながらない
□顧客獲得コストが高く、受注しても利益が出ない
□プレスリリースを配信しても反響がない
□事例インタビューを依頼できるほど、満足している顧客がいない

その他のPMFしていないシグナル
□顧客に提供できる価値を明確に説明できない
□競合に比べて選ばれる理由を明確に説明できない
□既存顧客などからの紹介が発生していない
□問い合わせが発生していない

突然PMFする場合もある

 1点注意したいのは、リリースしてしばらくは鳴かず飛ばずだった商品があるきっかけで一気にPMFを達成し、それまでの苦労が嘘のように次から次へと売れていく場合もあるということです。

 もちろん、最初から強烈なPMFを達成する商品もありますが、それはごく稀でしょう。あきらめることなく、PMFの達成を目指し続ける姿勢が重要です。

 私自身、PMFした商品、PMFしていなかった商品の両方を経験していますが、明らかにPMFした商品の方がかかわる人たちが幸せになる確率が高いと確信しています。

 PMFがない状態では、顧客に使ってもらえず、売上も上がらず、顧客獲得のコストも高く、顧客は喜んでくれず、結果として新規事業の目標値には届きません。スタートアップであれば銀行の残高がどんどん減っていきます。この状態では成功の確信が持てず、組織の雰囲気も良くならないことが多いでしょう。

 一方、PMFがある状態では顧客が増え、売上も上がり、顧客獲得のコストも低く、顧客は喜び、結果として新規事業は目標数値を次々と達成していきます。スタートアップであれば銀行の残高がどんどん増えていきます。

 また、「売上はすべてを癒やす」という言葉があるように、組織は成功への確信を深め、良い雰囲気になることが多いでしょう。

 営業パーソンとしてもPMFしている商品は売りやすくて、仕事をしていて楽しいものです。一方でPMFしていない商品は売りづらく、知らず知らずのうちに心身ともに削られてしまいます。

 働く人たちの幸福度を考えたときでも、PMFしている商品を持つことは重要でしょう。

6つのフェーズからなるフィットジャーニー

 フィットジャーニーとはスタートアップ・フィットジャーニー(図3-1)というフレームワークをもとに作成した事業アイデアの立案からPMF、そしてGrowthまでの道のりを示したものです。

図3-1 スタートアップ・フィットジャーニーの4つのフェーズ
図3-1 スタートアップ・フィットジャーニーの4つのフェーズ
出典:スタートアップ・フィット・ジャーニー 今どの段階にいて、 何に取り組むべきかのガイド(https://review.foundx.jp/entry/startup-fit-journey)をもとに作成

 スタートアップ・フィットジャーニーは、CPF(カスタマープロブレムフィット)、PSF(プロブレムソリューションフィット)、SPF(ソリューションプロダクトフィット)、PMF(プロダクトマーケットフィット)の4つのフェーズを検討します。ここではこれにGTM(ゴートゥーマーケット)、Growth(グロース)のステージを加えて、以下の6つのフェーズに分けたものをフィットジャーニーとして解説します(図3-2)。

図3-2 フィットジャーニーの6つのフェーズ
図3-2 フィットジャーニーの6つのフェーズ
  • CPF(カスタマープロブレムフィット)
  • PSF(プロブレムソリューションフィット)
  • SPF(ソリューションプロダクトフィット)
  • PMF(プロダクトマーケットフィット)
  • GTM(ゴートゥーマーケット)
  • Growth(グロース)

 フィットジャーニーを活用する際は各フェーズにおいて、達成すべき「目標」を定義することが欠かせません。

 チーム内で定義した「目標」を達成し、次のフェーズ、次のフェーズへと進んでいくことでPMFやその後のGTM、Growthが実現できます「目標」を達成するためにはフェーズごとに最適な「指標」を設定し、判断材料にすることが重要になります。そして、「指標」を進捗させるためには行動が必要ですが、「主な活動」に記載した通り、フェーズごとに必要な行動は違います。

 本書ではそれぞれのフェーズについて詳細に解説していきます。

図3-3 フィットジャーニーの6つのフェーズの詳細
図3-3 フィットジャーニーの6つのフェーズの詳細
新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書 良い市場を見つけ、ニーズを満たす製品・サービスで勝ち続ける

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新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書
良い市場を見つけ、ニーズを満たす製品・サービスで勝ち続ける

著者:栗原康太
発売日:2022年10月11日(火)
定価:1,980円(本体1,800円+税10%)

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この記事の著者

栗原 康太(クリハラ コウタ)

1988年生まれ、東京大学文学部行動文化学科社会心理学専修課程卒業。 2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年に「才能を流通させる」をミッションに掲げ、経営者・事業責任者の想いの実現を加速させる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。 アドテック東京などのカンファレンスでの登壇、宣伝会議・広報会議など主要業界紙での執筆、取材実績多数。 Twitter...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/10/18 08:00 https://markezine.jp/article/detail/40162

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