高まるオンオフ統合施策へのニーズ
MarkeZine編集部(以下、MZ):お二人のご経歴と業務内容について教えてください。
福森(イオンファンタジー):私はイオンファンタジー入社後、主に営業部門や仕入れの部門を担当してきました。現在は「ファンタジーメディア」をはじめとする広告プロジェクトの開発に携わっています。
丹羽(Septeni Global):私は2002年に新卒でセプテーニに入社し、デジタルマーケティングの黎明期からバナー広告や検索連動型広告などの広告商材の販売や新たな広告商材の企画開発をしてきました。
丹羽(Septeni Global):現在はSepteni Globalという海外事業を専門とするグループ企業で、日本企業のグローバルな事業展開の支援と、海外企業の日本市場への参入をマーケティングの面から支援しています。イオンファンタジーさんとは、広告商材の代理販売パートナーとしてご一緒しています。
MZ:国内外の様々な企業のマーケティングを支援するSepteni Globalの視点から、昨今の広告施策に見られる特徴を教えてください。
丹羽(Septeni Global):生活者のメディアへの接触動態に合わせて、これまでオフラインを軸にマーケティング施策を展開していた企業様はオンライン施策を取り入れ始めています。その逆も然りです。つまり、オンオフ統合マーケティングに対する広告主側のニーズは着実に高まってきているといえます。そしてその流れは国内外を問わずグローバルで起きています。
自身の“畑”に偏った指標を追い求めていないか?
MZ:オンオフ統合施策に関し、広告主からは具体的にどのような要望が寄せられているのでしょうか。
丹羽(Septeni Global):Septeni Globalでは、日本市場に進出したい海外の企業様のマーケティング支援を行っています。支援に際し、多くの海外のクライアントから「日本市場の特徴に沿う施策を提案してほしい」と希望されます。
前述の通り、オンオフ統合マーケティングは世界的に求められています。それを前提として、たとえばオンライン広告と合わせて駅構内や電車内の交通広告を利用することは、電車の公共交通が発達している日本では非常に大きな効果が見込めます。というのも、電車で通勤する人が多い日本の生活様式に非常にマッチしているからです。一方で、電車が発達していない国では同様の効果は見込めないでしょう。それゆえ、我々としては日本市場の特徴に沿ったオンオフ統合マーケティングを提案するようにしています。
オンオフ統合施策を進めるにあたり、ターゲットの選定やアプローチの方法、効果指標の設定には注意が必要です。なぜかというと、多くのマーケターが自身の“出身の畑”に偏った指標や成果を追い求めてしまうからです。たとえば、オフライン畑出身の方であればテレビの視聴率、オンライン畑出身の方であればクリック率やCVRなど、それぞれの畑で個別に指標が存在します。オンオフ統合施策を考える際には、両者の設定方法や指標を慎重に擦り合わせることが肝要です。
564のアミューズメント施設に設置されたファンタジーメディア
MZ:イオンファンタジーでは2022年3月に、新たな広告メニューとしてファンタジーメディアを開発されたそうですね。オンオフ統合施策も実現可能だと伺いました。同広告商材の概要を教えてください。
福森(イオンファンタジー):ファンタジーメディアとは、当社が運営するファミリー向けアミューズメント「モーリーファンタジー」やカプセルトイ専門店など、日本国内の計564(2022年10月1日時点)のアミューズメント施設内に設置された2,700を超えるサイネージメディアです。サイネージの種類は、クレーンゲームサイネージや施設内のサイネージ、当社のオンラインクレーンゲーム「モーリーオンライン」に掲載するバナー広告枠などがあります。
福森(イオンファンタジー):ファンタジーメディアの強みは、当社が全国に展開する店舗数を背景に、店舗に日々お越しいただく多くのお客様と接点を持てることにあります。当社はお子様とそのご家族というファミリー世帯がメインですので、来場者の層も明確です。広告主様にもターゲットがわかりやすいのがメリットだといえます。当社施設はショッピングセンター内に併設されているため「広告を見た後に、モール内で商品を購入したり、サービスを利用する」といったシチュエーションにつなげやすいのも利点です。
そして当社の事業のユニークさを活かして、景品と連動させることができます。サイネージへの広告掲出に加え、広告主様のキャラクターなどをクレーンゲームの景品にすることが可能です。日本全国の店舗での景品展開は認知度向上につながります。さらに景品にQRコードを貼り付けてApp Storeや広告主様のWebページに誘導することもできます。
福森(イオンファンタジー):ファンタジーメディアの活用事例の一つに、アムタス様の電子書籍配信サイト「めちゃコミック(以下、めちゃコミ)」があります。めちゃコミのオリジナルキャラクター「めちゃ犬」を景品に設定し、全国の店舗で景品展開することで認知度拡大を目指していただくとともに、景品を手に入れた来場者に対してQRコードを付与。QRコードからめちゃコミのページへ誘導し、月額登録を促す施策を展開していらっしゃいます。
日本独自のパターンを踏まえた提案で顧客獲得を目指す
MZ:Septeni Globalは、2022年7月にファンタジーメディアの先行代理販売を開始したそうですね。なぜSepteni Globalを代理販売パートナーに選ばれたのでしょうか。
福森(イオンファンタジー):当社は広告メニューの開発や、広告を通じて生活者に体験価値を提供するビジネスは展開していても、広告主である法人のお客様、特に日本への進出を検討されている海外企業のお客様に対して、広告価値の訴求のノウハウを持ち合わせていません。その点で、Septeni Globalさんのお力を借りた次第です。
丹羽(Septeni Global):現在当社では、主に海外の企業様を対象にファンタジーメディアのセールスを行っています。なぜかというと、モバイルアプリゲーム業界においては海外の企業様も非常に多く、かつ日本市場参入の需要が多々あるからです。しかし、海外の企業様にとって日本市場は独自の文化が強く、参入が難しい状況にあります。
たとえば「子どもたちがクレーンゲームで遊んでいる間に親はスマホを見ている」「一部のコレクターの中で、景品は収集対象になるほど貴重なアイテムと認識されている」など、日本人ならイメージがしやすくとも、海外の方には理解が難しいある種の「パターン」が存在するのです。
当社では、日本市場の独自性を踏まえた上でファンタジーメディアをうまく提案し、海外での顧客獲得につなげることを第一フェーズと考えています。販売戦略の第一フェーズを達成した後は、セールスの対象範囲を日本の企業様にも広げていく予定です。
来場者の体験に基づく効果測定の実現へ
MZ:丹羽さんは先ほど「オンオフ統合施策を考える際は、オンライン・オフラインのターゲット設定やアプローチの方法を慎重に擦り合わせる必要がある」とおっしゃっていましたが、ファンタジーメディアを活用する際にもその点は留意すべきでしょうか。
丹羽(Septeni Global):ファンタジーメディアのサービス設計はシンプルです。クレーンゲームを嗜む層に対し、景品やQRコードを介してApp Storeや広告主様のWebページの遷移を促します。オンオフ統合施策は往々にして複雑になりがち。だからこそ、ターゲットの設定やアプローチをシンプルに設計することが重要なのです。
MZ:イオンファンタジーはSepteni Globalと協力しながら、国内外の企業に向けてファンタジーメディアを提案されています。より多くの広告主にファンタジーメディアを活用してもらうために、取り組みたいことがあれば教えてください。
福森(イオンファンタジー):当社メディアの強みとして、全国の店舗において、リアルなお客様がそこにいることです。しかし現段階では来店中のお客様との接点のみ。これを現在検討している当社アプリとの連携を行うことにより、来店時以外でもお客様との接点を持つことができるようになります。
将来的な展望ですが、当社はイオングループに属しており、グループ企業が運営するモールやモール内の専門店、スーパーには、日々、本当に多くのお客様が来店されています。個人情報の取り扱いには十分注意しつつ、相互送客につながるような取り組みができれば、グループとしてシナジーを発揮しつつ、お客様にもより利便性を感じていただくことができるかと思います。それにより広告主様の広告効果も一層高まるのではないでしょうか。
「精緻化」に囚われず、独自の指標を提案する
MZ:イオンファンタジーは中国やASEAN各国にも事業を展開していると伺いました。
福森(イオンファンタジー):はい。現在、中国・マレーシア・タイ・フィリピン・インドネシア・ベトナム・カンボジアにも当社が運営する施設は存在します。海外では日本よりもアプリの利用が進んでおりますし、各社においてアプリの活用が進んでいますので、アプリを軸にして広告事業を展開していきたいと考えています。
MZ:福森さんの展望を踏まえ、Septeni Globalはどのような価値を提供できるとお考えですか?
丹羽(Septeni Global):当社としては、レポーティングの品質向上に一層力を入れていきたいと考えています。ただし、ターゲティングなど「個人をより精緻に特定する」という文脈での品質向上ではありません。個人情報保護強化の流れは今後一層強まることが予想されます。その背景を踏まえ、ターゲティング文脈での精緻化を目指すのではなく、ファンタジーメディアというオンオフ統合したユニークな広告媒体だからこそ提案できる独自の指標を探っていきたいです。
MZ:具体的にどのような指標を想定されていますか。
丹羽(Septeni Global):たとえば、ある広告主様が全国のファンタジーメディアに広告を出稿したものの、QRコードを通じたWebサイトへの遷移数、モバイルアプリのダウンロード数への遷移数が各地域で大幅に異なっていたとしましょう。「差が生まれた原因に●●という地域性があると考えられます」など、地域の特徴などにまで踏み込んだレポーティングができれば、ファンタジーメディアはより広告主様に満足してもらえる広告商材になると思います。