DX実現の鍵はCXとEXの向上
こうした施策を迅速かつ適切に講じるには、従業員側に余力がなければ不可能だ。逸見氏は「顧客体験とともにEX(従業員体験)を高める必要があります」と説く。
製品・サービス、チャネルをDX化して消費者の利便性を向上させる施策の評価は、LTVを可視化することで把握できる。一方、顧客情報とチャネルの統合やクロスチャネルの商品管理といった社内の仕組みが整備されてないと、DXは実現できない。
「これら二つが揃うことではじめてDXは進み、『顧客体験価値を高めるDX』というストーリーになります。順番としては最初に社内整備をしてからDX化をすすめるアプローチです」(逸見氏)
顧客起点で社内整備をする際に重要なのが、経営層と現場のフラットな情報共有だ。「経営が決定して現場が実行するという上意下達」ではなく、顧客視点で経営が考え、数値目標化した戦術を作成して事業部と共有する。事業部側はその数値目標を戦略化し、具体的な戦術にする。そして各チームでそれぞれのチーム戦略を描き、具体的な戦術へ落とし込むというアプローチによって、顧客起点での企業内の業務が実現する。
「このアプローチを実現するには、きちんとコミュニケーションが取れる社内環境が大事です」(逸見氏)
継続的な人材教育が重要
さらに逸見氏は、組織の変化を阻害する要因は「人」であると断言する。
過去の成功体験や世の中の変化を理解せず、変化による失敗を恐れて現状にしがみつく人はどの組織にも存在する。また、デジタル化の知見がないため、「どこから何を変えればよいかわからない」といったケースもある。こうした課題に対し逸見氏は「従業員が安心して改革・チャレンジできる環境を構築することが重要です」と力説する。そのためには継続的な人材教育に注力し、新入社員や中堅社員、経営層までも包含した教育メニューの拡充が大切だという。
最後に逸見氏は、「デジタル化は目的ではなく手段です。デジタル化が目指すのは、店舗とネットを融合し、顧客満足と従業員満足を高めて継続的な利益を上げて事業を継続すること。顧客と組織を意識した活動が、企業内外の変革の流れになると思っています」と語り、講演を締めくくった。