特徴3:購入者と使用者が異なる
私はノートパソコンを購入する際、自ら商品情報を調べ、お金を支払って購入しました。一方、多くのベビー用品はママ・パパがお金を支払って購入し、子どもが使います。しかも、その子どもは幼くなかなか意思表現ができません。
つまりマーケターとしては、直接使用者の声が聞けないわけです。いかなる市場においても、購入者が誰か・使用者が誰かを特定し、真の購買対象層に適切なメッセージを伝えることは重要ですが、特に子育て用品・サービス市場においては注意しなければなりません。この、購入者と使用者が異なる点が3つ目の特徴です。
それでは「購入者」と「使用者」、どちらをより注視しなくてはならないでしょうか。言うまでもなく、お金を出してくれる購入者です。某メーカーの紙おむつの事例では、当初使用者である赤ちゃんの快適さを考え「高い吸収性」を訴求したところ、それほど売れませんでした。しかしのちに、購入者であるママ・パパの目線で商品設計を考え、紙おむつをつけると赤ちゃんの眠りが深くなり「夜泣きが減る」点を訴求。すると、売り上げ増加につながりました。
次に、「購入者」は具体的に誰かということを考えなければなりません。「ベビー用品購入における意思決定におよぼす影響の程度」を以前調査したところ、各商品によって割合は異なりますが、全商品の平均では9割程度をママが占めます。しかし、図表5を見てください。

出典:コズレ 子育てマーケティング研究所(2020年9月調査、
分析対象:「子どもがおり、かつエアコン購入経験があるママ」4,011名)
こちらは、エアコンを購入した際に誰の主導で商品を決めたか、という結果です。エアコンは、子どもの誕生をきっかけに購入する割合が空気清浄機に次いで多い電化製品です。購入決定の主導権を持つのはママが2割に対し、パパが6割弱を占めています。実はこのように、商品によっては購入におけるパパの影響も大きいのです。
今後、これまで以上にパパの育児参加も増えていくでしょう。したがって、パパの意識・価値観の変化も注視していく必要があります。ちなみに、チャイルドシートもベビー用品の中では、購入におよぼすパパの影響が大きいプロダクトとなります。
子育て世帯のニーズを理解し、効果的なマーケティングを行うには?
本稿では「子育て用品・サービス市場」について、特にベビー用品におけるママの購買行動から以下の3つの特徴を紹介しました。
第1の特徴として、効果的なメッセージ訴求を実施するには、日・月・年齢別のセグメンテーションが重要です。子どもの成長とともにニーズや思考も変化するので、同一のベビーグッズを購入するとしても時期によって重視する属性が異なるのです。
第2の特徴として、購買対象層が短期間で入れ替わります。今日のママ・パパは5年後、顧客でなくなっている可能性が高い一方で、新規参入してくるママ・パパが存在します。今、目の前にいる対象を注視しながら、今後新たに参入してくる層についても考えなければなりません。購買行動に影響をおよぼすであろうママ・パパの現在の意識・価値観の継続的な把握が大切です。
第3の特徴として、購入者と使用者が異なります。多くのベビー用品は、ママ・パパがお金を支払って購入し、子どもが使います。誰が何を考えているのか、という目線を明確にしたマーケティングを行う必要があります。
子育て世帯にアプローチをする際は、上記3つの特徴を踏まえた視点がマーケティングには欠かせません。はじめに述べた通り、子育て市場の規模は微増傾向にあります。3つの特徴を押さえたうえで商品・サービスのコンセプトを設計し、マーケティング施策を立て、効果的な訴求ができれば、多くの顧客のニーズに応えることができると言えます。
次回は、この市場で起きている事象の「本質」に迫るべく、子育て世帯の意識・価値観など特徴的なインサイトについて調査データをもとに紹介します。