今年18周年の「コミックシーモア」がPCOをいち早く活用
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回はMetaから今後新しく提供される予定のソリューション「Post Conversion Optimization(以下、PCO)※1」をNTTソルマーレの「コミックシーモア」でいち早く活用した事例について、その詳細を伺っていきます。まずは、コミックシーモアのサービス概要をご紹介いただけますか?
成瀬:コミックシーモアは、取り扱い冊数が100万冊以上(2022年10月時点)と、圧倒的な品揃えを有する電子コミックサイトです。2004年のサービス開始から、今年18周年を迎えることができました。サイト内でどのコミックタイトルが一番人気かをお客様の投票で決める企画「電子コミック大賞」のほか、季節に合わせた企画、キャンペーンなど、オリジナルの企画を多数用意しており、1年中いつ来ても楽しめるようなサイト作りに注力しています。
MZ:コミックシーモアは、テレビCMからデジタルまで広くマーケティングコミュニケーションを展開しているイメージがあります。広告を展開する上で大切にしていることを教えてください。
成瀬:テレビCMをはじめとするブランディング向上の領域と、ウェブ・SNS広告がメインのダイレクトマーケティングの領域で連携を図りつつ、効果最大化に向けて進めております。中でも、私と堀田はダイレクトマーケティングのほうを中心に担当しており、同分野では出版社様よりお預かりしている素敵な作品を、より多くのお客様にお届けするために、作品の魅力を最大限に引き出して体験いただくことを大切にしています。それを実現するために、新しい広告プロダクトには積極的に投資・チャレンジをしています。
Cookieレス、CAPIの導入・実装にもスピーディーに対応
MZ:新しい広告プロダクトにはどんどんチャレンジしていくというお話がありましたが、中でもMetaの提供する「コンバージョンAPI(以下、CAPI)」の導入・実装はかなり早かったと聞いています。
宮本:はい。そもそも日本でCAPIを提供し始めたのは、2020年秋ごろのタイミングでした。NTTソルマーレさんは2021年4月にCAPIを導入・実装されていて、同じ業界内で一番早い導入でした。
堀田:プライバシーの配慮に関する問題は、弊社だけでなく色々な業界・企業で注視されているところだと思います。安心安全な形でデータを活用できる仕組みということで、CAPIは非常に魅力的なソリューションであり、プライバシーへの配慮を最重視する考えのもと導入を決断いたしました。
★コンバージョンAPI(CAPI)とは
Metaが提供する、プライバシー保護とパフォーマンスマーケティングを両立させるためのソリューション。ブラウザを経由せず、広告主のサーバーからMetaのサーバーへとデータを直接やり取りすることができる仕組みとなっている。CAPIに関する詳細、活用事例は「Cookieレス時代のネット広告を考える~利用者保護とマーケティング成果を両立するために」の連載をチェック。
(※1)Post Conversion Optimizationは本提供前で、現在は一部の広告主に対してのみの限定的な機能となっている(2022年11月時点)
注目のMeta新機能「Post Conversion Optimization(PCO)」とは?
MZ:続いて、Metaが提供する予定の新機能PCOがどういったソリューションなのか、ご紹介いただけますか?
宮本:これまでFacebook/Instagram広告は、「広告の表示もしくはクリックから7日以内に発生するウェブ上のイベントに対して広告配信を最適化する」というロジックになっていました。この時、広告最適化に向けて設定できるCVポイントは1つのみでした。
しかし、PCOでは浅い階層と深い階層の2つの利用者行動に対して、広告配信を最適化することができます。つまり、CVポイントを2つ設定できるということになります。
MZ:広告の自動最適化を回すのに際しCVポイントを2つ設定できるというのは、業界全体を見渡しても画期的な機能だと思います。具体的には、どのようなことができるようになるイメージでしょうか?
宮本:たとえば、無料会員登録から一定期間経った後に課金が発生するという形のサービスモデルがありますよね。コミックシーモアの読み放題サービスもそうですし、動画配信のサブスクリプションサービスやフィットネスクラブもこれに当てはまります。こういったモデルの場合、広告主においては「有料会員となる顧客を獲得すること」が最終的な広告の目的になります。しかし、ほとんどの場合、無料会員登録後の課金が7日以内に発生することは多くありません。ですので、従来の最適化のロジックでは、広告主のニーズに寄り添えていない部分がありました。
その点、PCOでは、37日間(7日間+30日間)以内に発生するウェブイベントに対して、広告の自動最適化を回すことができます。よって、浅い階層の利用者行動として無料会員登録を、深い階層の利用者行動としてサービス課金を、と2つのCVポイントを設定することが可能になります。
様々な業種業界での活用イメージ
MZ:たしかに、サブスクリプションサービスとPCOは特に相性が良さそうですが、他の業種業界だとどのような活用が考えられるでしょうか?
Lin:PCOは業種業界に関係なく、アイデア次第で様々な活用が可能です。PCOは現在、一部の広告主様に対してオープンベータ版として限定的に提供をしていますが、既に色々な業種でPCO活用によるビジネスへの効果が見られています。その中から、今日は3つの活用例をご紹介したいと思います。
まず1つ目は、最適化したい深い階層の利用者行動が広告表示/クリックから7日以降にある場合です。これは先ほど宮本がお話したサブスクリプションサービスの有料課金の例と同じ使い方ですが、他にも金融系のサービスで審査後に利用者への課金が発生するケースなどもあります。
2つ目として、特定の利用者行動を抑制したい時にもPCOは機能します。わかりやすい例で言うと、ECの返品を利用者行動として設定すれば、返品率の改善に向けて広告表示を最適化することもできるわけです。
最後に3つ目ですが、リアル店舗をお持ちの業種でもPCOを効果的に活用いただくことができます。代表的な例は、オンラインで来店予約をし、来店後に本契約に至るケースです。たとえば、ジムやヨガなどフィットネス系のサービスやエステティック系のサービス、英会話などの塾・教育系のサービス、少し毛色は異なりますがオンラインで試乗予約をして店頭で契約をする自動車などのプロダクトをお持ちの場合も上手く活用できます。
ポイントは、店頭での本契約というオフラインイベントから「こういう属性の利用者は本会員になる可能性が高い」とフィードバックすることで、Facebook/Instagramの広告の自動最適化の精度がさらに上がる点です。オフラインデータの有効活用にこそ、PCOの活用可能性があると考えています。これまでオンライン予約の獲得を目的にCPA3,000円で運用していたところが、CPA5,000円と多少上がっても、最終的な本契約をCVとして考えると費用対効果は高くなる、といったことも考えられるでしょう。
「新規顧客を獲得したいけど、できるだけ質の高い利用者を獲得していきたい」など、これまではサブ的な位置づけにあった目的も考慮して広告最適化を実現できる点に着目いただくと良いと思います。
MZ:なるほど。本当に色々な業種業界で有用なのですね。
宮本:そうですね、今Linがご紹介したケースの業種業界に限らず、PCOのこの最適化の機能自体が画期的であるということで、様々なところでチャレンジをしていただいています。
有料課金のCVRが14%向上、CPAは15%改善
MZ:では、コミックシーモアでPCOをどのように活用したのか教えていただけますか?
堀田:コミックシーモアの読み放題サービスは、7日間の無料トライアル期間を終えた後に、課金形態へ移行するという形のサービスとなっています。これまでFacebook/Instagram広告では、広告表示/クリックから7日以内に発生する7日間無料トライアルの登録をCVポイントにする他なく、その後の課金への移行率が考慮できていませんでした。
そこで今回PCOを活用し、「無料トライアル登録を1つ目(浅い階層)のCVポイント」に「有料課金への移行を2つ目(深い階層)のCV」に設定し、有料会員の獲得効率の改善を目指しました。
MZ:それによりどのような成果があったのでしょうか?
堀田:現時点ですでに非常に良い結果が得られています。通常時とPCO活用時で比較すると、有料課金登録のCVRが14%向上、CPAは15%改善されました。
MZ:コミックシーモアでこのような高い成果が出ているのは、CAPIを導入するなど、データマーケティングの基盤をしっかり整えられていることも関係しているのではないかと思います。PCOの有効性を最大限に活かすためには、やはりCAPIの導入が必要不可欠なのでしょうか?
Lin:CAPIの実装は、データマーケティングの基礎的な部分であり、インフラのようなものだと捉えていただくと良いと思います。CAPIを導入するメリットには、広告最適化に必要なシグナルの質と量を担保することと、利用者行動の計測という2つの観点があります。CAPIを実装することで、シグナルロスを最小限に抑えられるので、より高い精度でPCOの最適化が可能になるという意味では、やはりCAPIの導入は不可欠だと言えます。
CAPI実装のメリットとしてPCOの活用にトライしてほしい
MZ:NTTソルマーレは、今回の施策からどのような収穫がありましたか?
成瀬:今回のPCOを活用した取り組みは、業界的にもとても早い段階でのチャレンジだったと聞いています。未知数で新しいチャレンジだったにも関わらず、非常に良い結果を出せたというのは良かった点だと思っています。
MZ:今後チャレンジしていきたい施策などあれば、教えてください。
成瀬:Facebook/Instagramしかり、プラットフォームにおける広告手法は日々アップデートされています。PCOのような新しい機能・仕組みには、今後も積極的にチャレンジしていきたいですね。また、今回は読み放題サービスでPCOを導入しましたが、コミックシーモアでは読み放題サービス以外にも読み切り型の都度課金コンテンツなど様々なサービスを提供しています。今後こちらのサービスでもPCOを活用していきたいと思っており、実際に少しずつ取り組みを進めています。
MZ:最後に、CAPIおよびPCOの実装・活用支援におけるFacebook Japanの展望をお聞かせいただけますか?
Lin:利用者行動の計測、シグナルなどという言葉を出すと、プライバシー保護の問題を心配される方もいらっしゃいます。ですが、CAPIで使用するのはCookie有効時のピクセルと同じレベルの情報で、それ以上のものは求めていません。利用者のプライバシー保護をクリアした上で、データマーケティングに必須のシグナルの質と量を担保できるという点で、CAPIにはぜひ注目・期待いただきたいです。
宮本:データマーケティングの基盤作りという意味で、やはりCAPIは非常に重要なものであると思っています。このCAPIを実装した上での話になりますが、「ビジネスにおける本当のCVに対する最適化」は、企業で広告運用に従事されている皆さんが常に課題であり理想とされているところだと思います。CAPIのメリットを活かした機能の1つがこのPCOになります。現在はローンチ前のため限定的に提供している機能にはなるものの、近い将来にはこれらを活用して広告成果の最大化を一緒に目指していければと思っています。