ブランド=らしさ、売り手と買い手が理解し合う関係
――堀切さんにとって、ブランドとは何だと思いますか。
堀切:ブランドを一言で表現すると「らしさ」だと思います。自分たちも富士フイルムらしさを理解していて、お客様にもそれが伝わっている。これが生活者とブランドのあるべき姿だと思います。最近では気候変動への対応をはじめSDGsの達成に向けて取り組む企業が増えていますが、もはや社会課題の解決に取り組むのは大前提として、それらの取り組みが、企業らしさとつながっているのかが求められていると感じています。
――ブランディングに関する取材をすると「言行一致」が大事だという方もいますが、まさに言行一致を貫きながら、それが生活者に理解されることが重要なんですね。特に富士フイルムらしさが体現できたプロダクト・サービスというのはありますか。
堀切:グッドデザイン賞を受賞した「結核迅速診断キット」は、富士フイルムらしさの結晶だと思っています。このキットは、写真現像の「銀増幅技術」を応用し、尿中にわずかに含まれる結核菌を検出します。電力供給が安定していない地域でも電源、機器を使わずに簡単に操作できるように工夫されており、結核の早期診断・早期治療につなげます。富士フイルムのレンズ付きフィルム「写ルンです」は、写真の撮影ステップがわかりやすいように操作手順に合わせて数字を振っているのですが、このキットでは、「写ルンです」のデザインを踏襲して、どんな国の人でも簡単に使い方が理解できるようにしています。これは富士フイルムらしさを存分に活かしながら、社会課題を解決するデザインを作ることができた事例です。

富士フイルムという庭の見え方を考える
――ブランディングの取り組みは生活者や取引先の外向きの話と、社内のインナーブランディングの側面があると思いますが、それぞれで意識していることはありますか。
堀切:外から見たブランドは、庭と花の関係に似ていると思うんですよね。富士フイルムにはインスタントカメラの「チェキ」や化粧品の「アスタリフト」など、多くの生活者に認知されているブランドがたくさんあります。これらのブランドは花だと思っていて、事業ごとに異なる花が咲くと思っています。1種類の花がたくさん咲いている庭も素敵ですが、富士フイルムは様々な花がキレイに並んで咲いている庭を目指しています。そのためには、生活者の方に愛されるブランドを作るのはもちろん、BtoB事業の取引先様を拡大していくことが重要です。
そして、インナーブランディングでは、従業員が「うちってこういう会社なんだよね」と発信してもらえるような仕組み作りが重要だと考えています。経営トップが言っているだけでも、ブランディングの担当者が発信しているだけでもダメで、従業員一人一人が発信していくからこそブランドが強固になっていくはずです。
そのため、現在富士フイルムではブランドのガイドラインを作成し、社内で共有するとともに研修なども実施しています。なぜブランドが大事なのかを発信し、共感してもらい、自分ごと化してもらう。これを富士フイルムグループに在籍する7万5,000人以上の社員に浸透させていったら、得られる成果も大きいと考えています。
――ブランドのガイドラインにはどのような内容が含まれているのでしょうか。
堀切:富士フイルムブランドを改めて定義した上で、ブランド定義に沿ったデザイン方針や写真、フォント、ロゴの使い方などを記載しています。
