支出が増えたのは住設備、コンテンツ、美容
では、彼らの支出が増えたカテゴリを見てみましょう。19年から21年で支出金額が増加したカテゴリは主に3つのグループに分けてみることができそうです。
まず、住宅、家具、家電など住設備に関するカテゴリへの支出が大きく伸びていました。全体に比べ本棚、空気清浄機といった機能性の高い家具、家電が特徴的に購入されていたようです。
次に、ゲーム、漫画といったコンテンツへの支出も大きく伸びていました。具体的には、家庭用ゲーム機やメジャーな漫画作品といった家族や仲間と共有できるコンテンツが特徴的に購入されていたようです。
3つ目のカテゴリは、エステ・ネイル、コスメ、美容院などの美容に関するカテゴリです。セルフネイルグッズ、縮毛矯正といったイベント感のある美容や施術が特徴的に購入されていました。

では、これらのカテゴリへの支出金額が増加した人は、どのような意識や価値観を持っているのか、同時に聴取した意識調査の結果を見てみましょう。
まず、住設備への支出を増やした人の意識で全体との差分が大きかったのは「何かに属していることによる自信がある」「情報処理能力が高い」といった意識です。コロナ禍で住設備を充実させた背景には、これまで自分が信じ属していたものが揺らぐ中、家の中に自分の「拠り所を確保したい」という気持ちを垣間見ることができます。
次に、コンテンツへの支出が増加した人の意識で全体との差分が大きかったのは「欲しいものを買うためなら生活の何かを削る」「将来に備えるより今をエンジョイするタイプだ」といった意識でした。欲しいものに貪欲で、“今の充実”を追求する人々の姿が浮かび上がってきます。
最後に、美容への支出が増加した人の意識で全体との差分が大きかったものは「お金を使わないと幸せになれない」「多少値段が高くても、後悔しないものを買う」というような消費に対する強い意欲が特徴的でした。お金を使って消費をすることが自分の幸せになっている、自分にご褒美をあげたい、そんな意識の人が美容への支出を増やしていた、ということです。
見えてきた、支出シフトの実態
コロナ禍中に支出が増えた層にはどんな人がいるのか、段々と人となりが見えてきました。ここでさらに、前述した3つのカテゴリへの支出を増やした人々が、コロナ禍前の19年にはどのような支出をしていたのかを深掘りしてみましょう。長期間蓄積された家計簿データを使って、具体的な消費のシフトを明らかにしよう、ということです。結果をまとめたのが下記の図です。

まず、住宅、家具、家電など住設備への支出を増やした人々は、コロナ禍前には飲み会やアクセサリの購入などへの支出を多くしていたものの、コロナ禍でその支出を大きく減少させたことがわかりました。つまり「交際に関連する支出をしていた人が、コロナ禍で住設備の充実に支出をシフトした」ということです。
次に、ゲーム、漫画といったコンテンツへの支出を増やした人々は、コロナ禍前にはレジャーやイベントなどへの支出を多くしていました。「アウトドアに関連するリア充な支出をしていた人々が、コロナ禍で家の中でも楽しめるコンテンツの支出にシフトした」のです。
そして、エステ・ネイル、コスメ、美容院などの美容への支出を増やした人々は、コロナ禍前は、外食や旅行などへの支出を多くしていました。つまり「いつもと違う場所に出かけることでリフレッシュしていた人たちが、コロナ禍でそんな消費を制限された結果、いつもと違う自分を演出することでリフレッシュする美容の支出にシフトした」ということなのです。