コロナ禍を経て「2つの市場が混ざり合う」
ここまでの話をまとめます。
コロナ禍で支出総額が増加した人々の家計簿データを詳細に分析すると、交際から住設備へ、アウトドアからコンテンツへ、リフレッシュから美容へと、支出したカテゴリが大きくシフトした人々の姿が見えてきました。
また、その人々の意識を分析すると、支出のシフトの背景には、“拠り所”を確保したい、“今の充実”を追求したい、自分に“ご褒美“をあげたい、といった欲求が隠れていることも見えてきました。
背景にある生活者の意識は同じでも、コロナ禍前とコロナ禍とでは支出していた市場が大きく変わる、ということが今回のデジノグラフィアプローチで分析して見えた発見でした。
さらに言えば、コロナ禍の最中に支出を増やした生活者は、行動が制限される中でも、どうにか「ウチ」の中に「ソト」で満たしていた欲求の行き場を模索した人々ということもできるのではないでしょうか。その結果として、新しい消費の目的が生まれ、コロナ禍の支出全体の増加につながった、ということです。

2021年に比べ、2022年12月現在では生活の様々な面で行動の制限が解消されつつあります。この流れはおそらく今後も続いていくことでしょう。では、今回分析したような市場の変化は今後どうなっていくのでしょうか。コロナ禍前の状態に、単純に揺り戻していくのでしょうか?
おそらく、単純な揺り戻しにはならないでしょう。コロナ禍を経て生活者は、住設備の充実や家の中でのコンテンツ消費、あるいは美容による自分磨きなど、これまで目を向けてこなかった新たな消費の楽しさを発見しました。
今後は、行動の制限が解除されて復活していく「ソト」の消費と、コロナ禍で新たに体験された「ウチ」の消費が混ざり合い、市場の新たなトレンドとなるかもしれません。
設備を充実させたイエナカでの交際や、漫画やゲームの世界観を反映したアウトドア、あるいは美容のための旅行といった、2つのカテゴリの楽しさを併せ持つ商品やサービスが注目を集めることも増えていきそうです。

自社データ分析でも使える視点
再び酒井です。今回紹介した分析結果はいかがだったでしょうか。
冒頭にも書いた通り、ビッグデータの強みの一つは、単発のアンケート調査では難しい、生活者一人ひとりの時系列変化を可視化できることです。この強みを活用することで、単にコロナ禍中に住設備、コンテンツ、美容へ支出する人が増えた、というだけでなく、彼らがどのようなカテゴリから、それらのカテゴリへ比重を移したのか、カテゴリ間のシフト構造が見えてきます。
さらに重要なのは、行動データの分析対象者に意識調査まで実施することで、行動変化の背景にどのような欲求が隠れているのかまでわかる、ということです。今回の分析ではアンケートによる定量調査で意識を聴取していますが、インタビューなどの定性調査でも様々な発見ができるはずです。
また、これらの生活者一人ひとりのシフト構造の可視化、背景にある意識の深掘りという分析は、自社あるいはパートナー企業が保有しているデータでも行いやすいものです。
現在では多くの企業が自社の顧客会員データやポイントカードデータを蓄積するようになっており、そこには各ユーザーの購買履歴が蓄積されているからです。
家計簿レベルで大きなカテゴリ間のシフトまで分析するのは難しい場合が多いでしょうが、自社がラインアップする商品間のシフトは可視化できます。当然取得した個人情報の利用規約にもよりますが、直近で購買を多くしている人に理由をヒアリングすることなどもできるはずです。
次回以降も、皆さんのヒントになる様々な分析事例を紹介していきます。ぜひご期待ください。