リテール業界を挙げてサイネージの可能性を探る
カルビーの松永氏が所属するリテールサイエンス部は、購買や行動のデータから顧客を理解し、仮説の立案、アクションまで一気通貫で行い、顧客が欲しいと思う商品を届けるロジックやツールの開発を進める部署だ。その実現には、ビジネス/データ/武器(ツール、戦略など)/人財の4要素が不可欠であり、とくにリテールメディアの活用に可能性を感じているという。
しかし顧客は、特定の商品だけを求めて買い物をしているわけではない。そこで松永氏は、AIテクノロジーによる流通業界のDX化を目指して発足した一般社団法人リテールAI研究会に参画。さらにリテールメディア分科会のリーダーを務め、複数のメーカー、小売り、ITベンダー企業とともに、サイネージの可能性や顧客との最終タッチポイントとなる店頭の価値形成について、分析と研究を進めている。
「デジタル化したリテールメディアは、棚前行動の測定や施策の効果検証がすぐにでき、店頭でお客様と最適なコミュニケーションが実現できる新しいメディア。お客様にとって価値ある売り場作りへつながる、可能性やチャンスを感じています」と語る松永氏。本セッションでは、リテールメディア分科会の活動やサイネージの実証実験で得られた知見を紹介した。
高機能なサイネージでスピーディに売り場を改善
まずは、実証実験で使用しているサイネージの特徴から押さえよう。SBクリエイティブが提供するこのサイネージは、顧客と棚の距離に合わせたコンテンツの出し分けと、棚前行動の計測という2つの機能を持つ。
コンテンツの出し分けは、棚に設置したTOFセンサー(赤外線を使って被写体との距離を測るセンサー)が作用する。顧客とサイネージの距離をFAR(通過)、NEAR(立ち止まり)、PICK(接触)の3段階に分け、各段階に適切なコンテンツを配信していく。
「売り場との距離に合わせてコンテンツを出し分けることにより、お客様とインタラクティブにコミュニケーションが取れ、購買へつなげる仕組みができる」と松永氏。
このような顧客の棚前行動をTOFセンサーやカメラが計測する。FAR、NEAR、PICKの対象となる顧客が何人いるか、また売り場のどこを見ているかなどがデータ化され、翌日にはBIツールで分析できるという。さらに実際の購買データを重ねることにより、立体的なデータ分析、顧客理解も可能だ。松永氏によると、実証実験でもデータを見ながら月次で売り場を変えていくという、スピーディな改善が実現したそうだ。