リテールに求められる「実店舗の再定義」
リテールテックの進化のきっかけとして代表的なのが、無人店舗のAmazon Goの誕生だ。しかし、田中氏は「それ以前からすでに流通市場の構造変化が始まっていた」と語った。その構造変化の要因もAmazonにあるという。
「Amazonの登場により、流通は『実店舗』と『オンライン店舗』の2つに分かれるという構造変化が起きました。その後、スマートフォンの登場により、テレビや本、そして商店まで持ち歩ける時代が到来し、多くの産業構造が大きく変化したのです。そして、AmazonはAmazon GoやAmazon Freshなど実店舗の開発に動き出し、他の小売企業もこれに対抗せざるを得なくなりました。多くの小売企業はデジタル武装を行い、実店舗の意義や役割を再定義し、新しい形に変容しなくてはならなくなったのです」(田中氏)
では、ネット小売で圧倒的な存在感を示していたAmazonが実店舗の進出に動いているのだろうか。
田中氏はこれについて「ECに比べ、リアル店舗のほうが圧倒的に収集できるデータが豊富だからだ」と説明する。
Amazonのビジネスが、小売の売上だけに限らないのは周知のとおりだ。クラウドプラットフォーム事業やデータ活用に関する事業も展開している。そして、データビジネスを展開するうえで、取得できるデータ量が圧倒的に多いリアル店舗に進出することはAmazonにとって大きな意味を持つ。
実店舗がデータの宝庫である理由
では、なぜリアル店舗で取得できるデータ量は多いのか。まずリアル店舗とECを比べると、購入点数はリアル店舗のほうが圧倒的に多い。もちろんリアル店舗でも購入点数を抑える利用者はいるだろうが、たとえばスーパーマーケットのような業態を想定すると、リアル店舗はぶらぶら店内を歩きつつ、目に付いた商品をカートに入れていくという買い物行動が多い。
「リアル店舗は多くの商品が目的外購入の割合が高く、『テレビで見た』『話題になっている』『おいしそう』など様々な理由で購入点数が増える傾向にあります」(田中氏)
またECは「個人が自分のための商品を購入する」というケースが多い。これに対し、リアル店舗は個人だけでなく複数人で来店し、購入する商品も自分のためだけでなく家族や友人など、他の人のために買うものがある。リアル店舗のほうが、購入点数や購入品のバラエティに幅があり、そのぶん取得できるデータ量も多くなるのだ。さらにAIカメラなどを使うと購買時の行動までデータ化することが可能だ。
そして、この豊富なデータを収集・分析・活用するために欠かせないのがリテールテックだ。店舗内外のあらゆるサービスをデジタル化するとデータが入手しやすくなる。そして、リテールテックを活用することで「実際にものを売っている小売業にデータが集約される」という状態を作ろうとしているのだ。