複数の販促アイデアを組み合わせる
最後に、これまでの実証実験から得られた購買データと行動データをもとに、AIによる機械学習を行い、顧客の新しい行動の発見を導く実験が紹介された。
実験は、RMOT(Reverse Moment of Truth)と呼ばれる、商品を手に取るn秒地点前における購買行動をテーマに、カルビーとマーケティング支援会社のクレオ(KREO)、AIプラットフォームベンダーのDataRobotの3社で行われた。
検証したのは、次の仮説だ。
・商品に手を伸ばす/伸ばさない人の行動に違いはあるか、またその要因は何か。
・行動の差はどの瞬間にどのように生まれているのか。サイネージは影響しているのか。
菓子売り場のエンドにサイネージを置き、じゃがりこのクリエイティブを訴求別に3パターン用意した。
結果、手を伸ばす人/伸ばさない人には行動差が見られた。さらに購入準備、商品比較、商品検討、サイネージ興味の4フェーズで次のような行動差の要因があったという。

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この実験では、サイネージによる顧客の行動変容に対する効果はもちろん、その使いどころのヒントが見つかった。たとえば、顧客が商品に手を伸ばしたとき、視線は棚にある。このときは、サイネージを活用するよりも、棚のほうにPOPなどの仕掛けを置くことが重要だ。「サイネージだけでなく、音声やPOPなど販促のアイデアを複合的に重ねることが、リテールメディアの可能性を広げるのではないか」と松永氏は見解を述べた。
顧客にとって価値の高い売り場を作る
ここまでの実験結果を振り返り、「サイネージや周辺のプロモーションの効果的な活用は、お客様の購買の後押しになる可能性が高い」と手応えを話す松永氏。そして今後の展望として、商材によるサイネージ効果と行動変容の違いの深掘りや、業態の異なる店舗やエリアでの実験を試していきたいと語った。
一方、見えてきた課題として「顧客視点の売り場作り」に言及する。データ分析からは、90%の顧客が売り場を通過していると見られており、サイネージなどの活用で顧客にとって本当に価値のある売り場を作る工夫が必要だと主張した。
「購買までの流れやお客様の行動を分析し、お客様にとってより意味のある売り場を作り、商品の価値を伝えるための方法を、より研究していきたいと考えています」(松永氏)
今回の分科会の活動では、多種多様な企業と共創するという経験、知見も得られた。松永氏は、「実証実験の結果が、流通全体の課題解決につながるヒントになれば嬉しい。興味のある企業はぜひ一緒に取り組んでいきましょう」と業界全体で取り組む意義を訴え、セッションをしめくくった。