ブランドの世界観を作り出す 人々を魅了する(3)舞台メタファーとは?
ブランドの世界観は生活者を魅了し、普段の生活を豊かにし、時には非日常的な体験を使用者に与えます。この世界観が個性的、魅力的なものであるほど没入感が上がり、ブランドへの好意が高まるでしょう。
世界観の体験を発想する「舞台メタファー」は空間や場、オブジェクト、事柄のメタファーということができます。
まず世界観を構成する大きな要素となるのは「空間づくり」です。その舞台が世の中にある着想をどんなものから得てクリエーションされるか? 何をイメージして作られているか? を表現するため、舞台設定において効果を発揮します。
たとえば、ルイ・ヴィトンは「旅」をテーマにしています。具体的な体験を作っていく時に「空の旅」をテーマにすれば飛行機と空を中心とした世界観、「時空の旅」とした時にはタイムマシンのような世界観、とイメージし具体的にアイデアを重ねていけます。ルイ・ヴィトンの例は「旅」という大きなテーマがあるので、その展開としてのものになりますが、ブランド自体の世界観を考え、その世界観を体験に昇華していく時にも非常に有効です。
また、「鳥の巣」をイメージした中国・北京にある国家体育場(オリンピックスタジアム)や、パリのノートルダム大聖堂から着想を得たと言われる東京都庁舎なども、空間や建築ですがその例と言えるでしょう。
誰もが共有しやすい世界観を瞬時に頭の中に呼び起こし、想像を膨らませる言葉を開発できるのが、この“舞台メタファー”の一言です。
「激安ジャングル」(ドン・キホーテ):舞台メタファーによる一言発想事例
舞台メタファーの事例を、もう1つご紹介します。
「激安ジャングル」のお店づくりで有名なドン・キホーテです。驚安の殿堂というブランドのタグラインをベースに、激安の商品がジャングルのような世界観で買物体験できるという狙いで"売り場を「激安ジャングル」と見立てたメタファー”です。ジャングルということもあり「熱帯雨林」的な鬱蒼としたイメージで売り場づくりを行っています。

「ジャングルで買物」と聞いてみなさんは何を想像するでしょうか。森林の茂みの中に露店が並んでいる? 木の実やココナッツのいい匂いがしてきそう? イメージが膨らみますね。
ドン・キホーテの店舗では、まさにそんな光景が繰り広げられています。所狭しと商品が並び、上から吊されたお菓子を避け、時には動物のおもちゃがこちらを向いて待ち構えているという、本当にジャングルにいるような気分になったりもします。
さらに曲がった通路で、先が見えない。そうすることで意外な商品との出会いを生み、思わずそれらを手に取ってしまうという効果もあります。また手書きのPOPがあることにより、雑然感や生っぽいライブ感をさらに演出していて良いスパイスになっています。
これは回遊して、買物そのものを楽しむというショッピングの原点回帰とも言えると思います。インターネットやECが発達しても失われない価値なのではないでしょうか。
それまでジャングルで買物をするなんてことは誰も想像すらしていなかったですが、そんなことができたらワクワクすると思います。
「ジャングル」で買物というまったく思いも寄らないメタファーを持ってきて生活者の想像力を掻き立てる。1990年代から変わらずこのスタイルを続け、生活者に愛されているドン・キホーテは、ショッピングの体験を、「舞台メタファー」によってアップデートした先駆的な事例と言えます。
今回は、人に話したくなる体験価値創造の3つのカギ(1)行動メタファー(2)擬人メタファー(3)舞台メタファーについて解説しました。記事で紹介した事例だけでなく、世の中の色々な商品やサービスも、「仕組み」「人」「舞台」を起点に捉えて一言にしてみると、新しい発見があるはずです。
次回は、マーケティングにおける4P(Product/Price/Promotion/Place)と比較しながら、ファンの心を動かす4E(Experience/Exchange/Every Place/Evangelism)の視点についての解説と、3つのメタファーの深堀りをしていきます。
