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BOOKS

消費者が抱く「憧れ」こそが強み “らしさ”を基点に百貨店の再起を考える【お薦めの書籍】

 経営統合や再編が相次ぐ百貨店業界。最近では、流通大手のセブン&アイ・ホールディングスが傘下のデパート「そごう・西武」の全株式を米国の投資ファンドに売却しました。本稿では、そうした逆風にさらされている百貨店の生き残り戦略を、マーケティング・コミュニケーションの観点から探った1冊を紹介します。

総合スーパーなど、他の小売業態との差別化が困難に

 今回紹介する書籍は『百貨店のコミュニケーション戦略 消費者基点による「百貨店らしさ」の探究』。著者は大阪公立大学大学院 経営学研究科 准教授の圓丸哲麻氏です。

『百貨店のコミュニケーション戦略 消費者基点による「百貨店らしさ」の探究』
圓丸哲麻(著) 千倉書房 3,520円(税込)

 圓丸氏は関西学院大学大学院商学部にて博士号(商学)を取得。麗澤大学経済学部経営学科准教授、大阪市立大学経営学研究科准教授などを経て、2022年に現職に就いています。なお、圓丸氏は大学院にて博士号を取得後に阪急百貨店(現在の阪急阪神百貨店)での勤務経験もあるそうです。

 4部構成となっている本書の第1部では、百貨店の現状の課題について概観し、第2部では他の小売業態とは異なる百貨店の強みについて解説。第3部で百貨店の広告表現に対する消費者の反応を紹介した上で、第4部ではニューノーマルおよびDX時代を踏まえた百貨店のマーケティング・コミュニケーション戦略について説いています。

 本書の冒頭、圓丸氏は「わが国の百貨店業態は衰退段階にある」と指摘。この衰退の原因のひとつに、総合スーパーあるいはショッピングセンターなどの競合業態との、品揃えやサービス内容における「同質化」があると述べます。

 さらに、新型コロナウイルス感染症が今なお猛威を振るう中、百貨店の存在をこれまで以上に脅かす環境変化が生じているとのこと。そんな冬の時代に百貨店が再起を図るためには、どのような視点に立ってマーケティング戦略を考えるべきなのでしょうか。

消費者視点で「百貨店」を捉え直す

 圓丸氏はこの疑問に対し「消費者基点の百貨店定義が、百貨店の衰退期脱却に寄与する」と答えています。本書によると、日本百貨店協会では百貨店を「物理的に独立した店舗面積が1,500㎡以上のもので、日本百貨店協会に加盟している企業」と定義しているそうです。しかし、いずれの定義も「総合スーパーやショッピングセンターなど他の小売業態と区別するには曖昧さが残る」と圓丸氏は指摘します。

 さらに圓丸氏は、どの定義も百貨店のビジネスモデルを基点にしている点に問題があるといいます。なぜなら、一般的な消費者が百貨店に抱くであろう「高級感がある」「取り扱う商品の質が高い」などのイメージが含まれていないからです。消費者のイメージが考慮されていない定義では「そもそもなぜ消費者は百貨店での買い物を控えるようになったのか」「百貨店のどういった提供価値が市場で求められているのか」を知ることができないと圓丸氏は考えます。

 そこで、ビジネスモデルではなく、消費者イメージを基点に百貨店を再定義した結果「百貨店は単なる『モノ売り』の場ではない」という真理が見えてきたのです。

確かに百貨店は、産業区分では小売業に位置づけられる業態である。〈中略〉しかし、消費者基点から百貨店を議論する場合、百貨店は果たして「モノ売り」と捉えるべきであろうか。百貨店の変遷を確認すると、消費者にとって百貨店とは、「モノ」だけでなき「コト(サービスや体験)を提供する存在であることがわかる。(p.17)

 たとえば、百貨店黎明期の三越(当時は三越呉服店)では、洋風化する時代の需要に即した商品の提供のみならず、食堂や演芸場のほか、当時においては画期的なエレベーターの導入を含む荘厳な建物・設備の提供、博覧会への参加やイベントの開催など、様々な「コト」を提供する「場」として機能していたといいます。

 三越のように消費者基点で百貨店を再定義し、その結果判明した「コトを提供する場」という特徴を際立たせたビジネスモデルの構築こそ、百貨店が生き残るための第一歩というわけです。

大丸松坂屋百貨店のTikTok活用事例

 コトを提供する場として、三越伊勢丹では「IT・店舗・人の力を活用した新時代の百貨店(プラットフォーマー)」を目標に掲げているそうです。圓丸氏によると、三越伊勢丹と同様そのほかの百貨店においても、DX時代に対応するためにはデジタル施策の強化が重要だといいます。

 百貨店によるデジタル施策の成功事例として本書で紹介されているのが、大丸松坂屋百貨店です。同社の社内インフルエンサーが2022年1月「お菓子食べすぎ会社員」というアカウント名で、様々なお菓子を試食する動画をTikTokに投稿したところ、3ヵ月でおよそ1万5,000フォロワーを獲得したといいます。

 短期間で多くのフォロワーを獲得できた要因として、圓丸氏はTikTokの持つ媒体特性と「お菓子」という商品特性の適合度と、インフルエンサーのキャラクター性を挙げています。圓丸氏が同社の企画担当者に直接話を聞いたところ「(ある特定カテゴリの製品やサービスに対する)偏愛力と、それを発信したいという想い、そして個人のタレント性を重視している」と語ったとのことです。

 そのほかの章では、紙の広告表現に対する消費者評価の調査結果や、圓丸氏が各百貨店の宣伝担当者らにインタビューした内容などを紹介しています。「百貨店ならではの提供価値を改めて問い直したい」「アフターコロナを見据え、百貨店の強みを活かしたマーケティング戦略を考えたい」そんな悩みを持つマーケターの方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

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この記事の著者

宮田 浩平(編集部)(ミヤタ コウヘイ)

MarkeZine編集部。香川県出身。2016年に時事通信社入社、広島支社、岐阜支局で勤務。2019年から広告・マーケティングの専門メディアで編集者。主にPR・ブランディングやプロモーション領域の取材を担当。2022年5月から現職。企業のサステナブルやDE&Iを軸にした取り組みに興味。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/01/24 08:00 https://markezine.jp/article/detail/41010

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