センサリー・マーケティングの活用を考える
従来のセンサリー・マーケティング研究では、実験室での実験が数多く進められていまし。ですが近年では、実際の売り上げデータとの結びつきを明らかにした議論も増えてきています。
上智大学の外川拓准教授、高知大学の磯田友里子専任講師、株式会社リクルートの鈴木凌氏、早稲田大学の恩藏直人教授による「顧客の名字がブランド選択に及ぼす影響― 視覚情報としての文字に注目して ―(PDF)」では、漢字のネームレター効果による影響が検討されています。ネームレター効果とは自身の名前に含まれた文字を含まれていない文字に比べて好ましく評価する傾向を指します。本論文では顧客情報と実際の売り上げデータを組み合わせることにより、自らの姓が含まれているブランドをより頻繁に購入していることが示唆されています。
早稲田大学の河股久司専任講師と守口剛教授による「ブランド・ロゴ変更時の彩度の変化が消費者のブランド態度に与える影響(PDF)」では、有力企業のブランド・ロゴ変更が相次いだことを問題意識として、色の彩度の変更による影響が検討されています。本論文では、ブランド・ロゴの彩度を向上させるとブランドの活力感が高まり、好ましいブランド態度に結び付くことが示されています。
カラー研究にはこれまでにも数多くの研究蓄積がありますが、彩度とブランドの活力感を取り上げることで、新たな知見を提供している点が特徴です。なお、近年のカラー研究の潮流が知りたい場合には、本論文の著者である河股専任講師がまとめられたレビュー論文「消費者行動領域における色彩研究の潮流(PDF)」がありますので、そちらもご覧ください。

先ほど取り上げた「ナッジ」という言葉からもわかる通り、ほんのちょっとした行動がその後の消費者反応を変えてしまう可能性がある点がセンサリー・マーケティングの面白さでもあり、難しさでもあるでしょう。早稲田大学の權純鎬助手、河股久司専任講師、須田孝徳助手による「電子媒体の画面接触が決済サービスのコントロール感と心理的所有感に及ぼす影響(PDF)」では、決済サービスの操作方法とその後の利用意向の関係が議論されています。
画面への接触回数が多いほど、自らが対象をコントロールしているという感覚が向上し対象への所有感が高まるため、その後の利用意向に結び付くというのが本論文の主張です。本論文で取り上げられているのは決済サービスですが、製品デザインに関わられている方には幅広く興味をもっていただけるのではないかと思います。
ここまで5つの論文を紹介してきましたが、いずれにおいても先進的な議論が進められています。改めて元の論文を読んでいただくと、本記事では紹介できなかったポイントやヒントを数多く得られるのではないかと思います。是非、ご一読ください。