ブランドのマインドシェアを捉える「Arena(アリーナ)」の概念
MZ:ブランディングに取り組む上でのヒントもいただけますか?
並木:インターブランドでは、事業戦略とブランド戦略は表裏一体であると考えています。事業戦略として良いビジネスを作り、ブランド戦略として良い評判を作っていく。このエコシステムを作らなければ、ブランドは成功しません。事業戦略を受けて評判を作るという順番の考え方では、特にこれからの時代は、ブランド価値を上げることは難しい。作りたい評判を考えて、どういう事業を作っていくかという視点も必要だと考えています。
その意味で、「生活者からどんなブランドとして見られているか」のポジショニングは非常に重要です。これを我々はArena(アリーナ)というアプローチで捉えようとしています。

同じ商品・サービス間で競争する「カテゴリ」の区分ではなく、ある特定のニーズに対して異なる商品やサービスをもって応えようとする区分が「アリーナ」で、前者は欲求を具現化したところで戦っており、後者は欲求の段階で戦っているという違いがあります。これによってブランドのマインドシェアが変わってくるので、アリーナでの戦い方が今後は非常に重要になってきます。

今回、「Best Japan Brands」にランクインしたブランドのアリーナを生活者がどう捉えているのかを探るために定量調査を実施しました。その結果、トップブランドのほうがより多くのアリーナを想起されるという傾向が確認できています。また、AmazonやApple、楽天、Googleなどのプラットフォーマーは、その多くが10以上のアリーナで想起されており、生活者にとって多様なニーズを満たす欠かせないブランドになっていることもわかりました。
想起されるアリーナの数とブランド価値の大きさや成長率を比較して分析したり、生活者が各ブランドに将来どのようなアリーナでの展開を期待しているのかを探り現在とのギャップを分析したり、色々な視点から分析をしていく予定です。より詳細な分析結果を3月末に公開する予定なので、ぜひ参考にしていただければと思います。
本当の意味でのリーダーに。これからのブランドの在るべき姿
MZ:「Best Japan Brands 2023」のリリースの中に、「ブランド・リーダーシップを中核に、その周りにビジネスを構築していくこと、これまでの事業領域を生活者の視点から捉え直し拡げていくことが、今後の成長の鍵になる」というメッセージがありました。ただ、ブランド・リーダーシップを取るというのは、日本企業が苦手とするところでもあります。最後に、これについてアドバイスをお願いします。
並木:インターブランドの考え方として「Brands as acts of leadership(リーダーシップを活動に落とした結果としてのブランド)」という表現があります。ブランド・リーダーシップという言葉は、この考えが元にあるものです。
ここまでパーパスの重要性についてお話ししてきましたが、パーパスだけでは良い世界を作り切れないとも思っています。パーパスで掲げる特定領域だけでなく、「どんな世の中であるべきか」に対しての姿勢を示すことが、昨今は特に求められるようになっているからです。

ウクライナ戦争やBlack Lives Matter、直近の日本で言うとLGBTQ+に関する法改正や、アメリカで注目を集めている人工中絶に関する問題など、多くの社会問題は立ち位置によって様々な意見があり、善悪をはっきりできる明確な答えはありません。一度スタンスを示した後に、批判を受けてその声明を撤回するケースも少なからずありますが、これはパーパスをもって全ての問題に適切に対応できるわけではないということを示しています。
これらの問題に対してみんなが同じスタンスを取ることもあり得ませんから、色々な意見があるという前提の中で、ブランドは自分たちの意見を示していく必要があります。パーパスで掲げる世界を実現するだけではなく、さらに拡げて、「どんな世の中であるべきか」に対しての思いや姿勢をブランドの意見として持ち、それを発信する。そして、願わくは、それを支援するブランドであってほしいです。
これまで、日本のブランドはジレンマが生じるような問いに対しては、ノーコメントを貫くかもしくは距離を置いてきました。ですが、これからの時代は、為したい世界観や道徳観にまで踏み込み、本当の意味でのリーダーシップを取っていくことも重要になります。これができれば、より良い世界を作っていくという生活者の期待に、行政やメディアとは違うところで応えられるのではないでしょうか。