ユーザー行動のリアルタイム解析でECのパーソナライズを目指す
新型コロナウイルス感染拡大により、買い物にオンラインを利用する消費者は増加してきた。総務省統計局が2月7日に発表した調査によると、「2022年の二人以上の世帯におけるネットショッピングを利用した世帯の割合」は52.7%となった。2021年に初めて50%を超えて以来、約半数以上が利用する状況が続いている(2002年調査開始)。
このように、小売店・飲食店のEC化・オンライン販売強化の動きが加速する一方で、ユーザーに寄り添ったページ設計ができていないことから、コンバージョンは上がることなく、コストだけがかさんでしまうケースも多数見られる。
今まで、350社以上のWeb体験の向上、ECサイトの支援を行ってきたSprocket 代表取締役の深田浩嗣氏は現在の企業の対応状況について傾向を語る。
「ここ2~3年ぐらいで、顧客データをしっかり反映し、精緻なパーソナライズをやりたい、というニーズがかなり増えてきている印象です。しかし、分析ツールの導入ではまず使い方を身につける必要があり、提供側としてそのサポートに時間がかかってしまうことも多々見られます。そうなると、ROI(費用対効果)の改善には当然つながらないため、取り組みを途中で離脱してしまうケースが多いんです」(深田氏)
そういった問題を受けて、Sprocketでは、CRO(コンバージョン率最適化)プラットフォーム「Sprocket」と、仮説の立案から施策の企画、設定、検証、改善など運用代行まで行う「コンサルティング」の両輪のサービスでROI改善まで伴走する。
特徴は、過去5万回以上のA/Bテスト実施による、サイト・アプリ内でのユーザー行動のリアルタイム解析だ。
「テストから得たデータに基づいて、顧客インサイトや文脈を理解した上でPDCAを回すことで、ECのROIでは平均1,565%、新規獲得のCPA(顧客獲得単価)では平均約4分の1まで減少するなど、数字としても確かな実績が表れてきています」と深田氏は語る。
ユーザー行動分析によるインサイトの理解で成果が出るUXに
では、「ユーザー行動」の分析が、なぜ確かなROI改善につながるのか。それは、ユーザーの行動をページ単体ではなく、ユーザー視点で考えながら分析を行うといった部分にある。
「ページ単体や経路の改善をしようという前提でデータを見てしまうと、ユーザーが何を考えてサイトを訪れたのか、これから何をしようとしているのかといった心理を見落としてしまい、そこから立てられる仮説の妥当性が低くなりがちです。ユーザー視点の状況を購入までの流れの中で想像することにより、仮説の妥当性は高められます」(深田氏)
精度の高い仮説があることにより、PDCAサイクルがより回しやすくなり、成果を出せるUXにつながる。これがユーザーの行動を分析する本質的な意味だ。
経路改善の手段については、ページ内で出し分けすることもできるが、クイックに仮説検証を回す上では、Web接客のアプローチが有効だと深田氏は語る。
その理由として次の三つを挙げた。
- クリエイティブを必ずしもつくり込まずとも、テキストの工夫次第で一定の効果を生み出せるため、制作の負荷が減る。
- ページと違って、ユーザーに自分向けの内容だと気づいてもらいやすい。
- ユーザーに直接アクションを要求するため、ポジティブ・ネガティブ要因共に検証用のデータを集めやすい。
特に検証用のデータについては、ページ内のコンテンツだけだと、実際に見ているのかがわからないため、十分なデータが取りにくくなってしまう。しかし、ポップアップだと「何もしなかった」「×を押して消した」などの中立的・ネガティブな行動まですべてデータ化できるため、PDCAを回しやすくなるという。
思いがけない離脱を防ぐ ガイドのポップアップで購入改善率が125%に
深田氏は、こうした5万回以上のA/Bテストを実践していく中で、サイト改善における三つの気づきを得たという。
一つ目は、「ユーザーは思いがけないところで離脱している」ということだ。運営側の思う当たり前とユーザー側の認識の間には実は多くのギャップが生まれている。たとえば、三本線のアイコン(ハンバーガーメニュー)。商品一覧を見られるにもかかわらず、このクリック率は、実はかなり低いことがわかったという。
「分析していくと、そもそもアイコンの意味を知らない、というユーザーの本音が見えてきました」(深田氏)
そこで、「クリックすると商品一覧が現れます」といったガイドをポップアップさせるA/Bテストを実施したところ、購入完了改善率は125%となった。
さらに目立つのが、購入や申し込みまで進んだ際の離脱だ。この部分は初めてのユーザーにとっては、送料、支払い、配送日など、単純な疑問が生まれやすいタイミングになる。運営側からすると「FAQに用意してあるから問題ない」と考えがちだが、購入ページから戻って探すとなるとかなり手間がかかってしまう。対策は、疑問が起こりそうなタイミングの前に声をかけ不安点を払拭することだ。知り得る情報はFAQと同様でも、購入完了改善率は向上した。
「このように、コンテンツの存在に気づかない、コンテンツを見ようと思わない、コンテンツに到達できない、コンテンツの内容が理解できないといった、見落としがちなユーザーの4つのつまずき(フリクション)に気づけるかが重要です」(深田氏)
ユーザーの変化で「セルフサービスは通用しない」時代に
サイト改善における気づきの二つ目は、「『セルフサービス』の前提は通用しない」という点だ。
「ヘルプコンテンツを用意さえすれば、ユーザーの問題を解消できると思いがちですが、実はそうでもありません。コロナ禍でネットに不慣れなユーザーが増えており、一方でデジタルネイティブと言われるZ世代は使い勝手の悪さに敏感で、時間効率を求めるといった傾向があります。自己解決にゆだねた設計では、離脱されてしまうのです」(深田氏)
サービスや商品の紹介動画は、普通ならなかなか見てもらいにくいものだが、手早く概要を知ってもらう手段には有効だ。実際、A/Bテストによりポップアップで見られるように誘導したところ、申し込み率は124%に改善したという。
「提案タイミング」の見極めで購入完了改善率225%
三つ目の気づきは、「提案のタイミングを見計らうこと」だ。どんなに良いコンテンツを持っていても、ユーザーに届かなければ意味はない。また、タイミング次第では、ユーザーがこういった提案自体にストレスを感じかねない。これに関して深田氏はリアルの接客と非常に似た考え方だという。
「お店に入ってすぐに店員さんが話しかけてきたら少し不快になりますよね。それはオンラインでも同様で、ユーザーにとって悪い体験にしないために、タイミングを見計らう必要があります。誰にでも、いつでも、関係なくお勧めするのではなく、困っていそうなユーザーに気づきを与えるのが重要です」(深田氏)
たとえば、在庫がない商品のページを見ているユーザーに対し、「新品の在庫はないが、中古であれば同じ商品を販売している」「似た代わりの商品ならある」といった案内は嫌がられることは少ないだろう。
実際に案内してみると購入率は225%に改善し、顧客体験は明らかに向上したという。他にも、実施したA/Bテストの一つに、「チャットボット」の活用がある。ヘルプコンテンツでは常套手法として、右下にアイコンが表示されるケースが多い。しかし、これは多くの人にとっては普段から表示される必要はない。
しかし、店内をうろうろして悩んでいたり、困っていたりする顧客に店舗スタッフが声をかける時と同じように、「対応できるので、良かったら問いかけてください」とポップが現れると、それが購入の背中を押すことにつながるケースもあるという。実際こうした提案により、チャットの起動率が上がり、購入完了率も増えたという実証結果が出ているという。
ユーザーを先回りした嫌がられない体験設計を広げていく
このように、サイト内で「つまずきのない体験を作る」「こちらから解決方法を提示する」「聞いてくれるタイミングを考える」といった3つのポイントを押さえた体験設計をしていけば、様々なところでユーザーのプラスな行動を引き出すことができると語った深田氏。
しかし、ここまでそれら体験設計における有効な手段として触れてきたポップアップについて、ユーザーはどのような印象を持っているのだろうか。同社が実施したポップアップに関するアンケートの結果によれば、ポップアップで受けた悪い体験として「×ボタンが押しにくい」「誤タップ」などの回答が多く挙がったという。
「×ボタンの設計一つでも、ユーザーは悪い印象を抱いてしまいます。そんな中で、ユーザーを“先回り”し、嫌がられる前に提案・対処するような、体験設計を作っていくことが重要です」(深田氏)
セッションから垣間見えた、同社が持つWeb体験向上への実証データとノウハウ。深田氏はこれらを生かし、今後も“ユーザーが求める”サイト構築を支援していきたいと展望を語り、セッションを締めくくった。
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