「ついやってしまう」メカニズムを分解する
心理学・行動経済学には、人間の思考には早い思考「システム1」と遅い思考「システム2」が存在するという理論があります。システム1は“自動システム”とも呼ばれ、印象を感じる・連想するなど、直感的に自動で働く思考システムです。コマーシャルを見た瞬間に「なんだかよさそう」と感じることが例として挙げられます。
システム2は“熟慮システム”とも呼ばれ、システム1で答えが出せない時に働く論理的な思考システムです。たとえば、コマーシャルを見て「なんだかよさそう」と感じた後に、製品サイトにアクセスし、金額を見て類似製品と比較し最終的に購入を決定する場合です。
これらの2つの思考システムがある訳ですが、時にシステム1だけで行動するケースがあります。これを活用した考え方が、連載の第1回において「行動中心設計」の全体像の中で紹介した「無意識な瞬間UX」です。
人々の行動を誘導する「ナッジ理論」
無意識な瞬間UXは、見た瞬間にユーザーが行動を選択するまでの意思決定プロセスにアプローチします。そのため、クリエイティブやUI(ユーザーインターフェース)に密接に関係します。一方で「ついやってしまう」をクリエイティブ・UIに活かしていくために必要な要素や体系的方法論は、いまだ確立されていません。そのため実務的な活用の難易度が非常に高い領域でもあります。
行動中心設計は、行動経済学者リチャード・セイラー教授の提唱する「ナッジ理論」をベースにしています。ナッジ理論とは、人々の行動に対して強制的ではなく自発的に、選択の自由を残しつつよりよい選択へ導く考え方です。先述の思考システムに置き換えると、システム2に頼らずシステム1へアプローチすることによって、人々がより良い行動を選べるようにしていきます。
行動中心設計では、このナッジ理論を実務的に解釈し、実践的に活用しやすい形で8つの要素を定義。これらを活用し「ついやってしまう」体験をデザインしていきます。