消費者が求める、プライバシー保護と高度なパーソナライズの両立
MZ:今回のソリューションの展開にも関連するかと思いますが、顧客の動きやブランドに求められる体験には今どのような変化が起きているのでしょうか。事業者側からのニーズも踏まえ、CXの今のトレンドを教えてください。
阿部:事業者側としては、まずモバイル最適化への取り組みがトレンドの一つになっています。コロナ禍前は、店頭でリアルに顧客と接点を持つことで得られた情報により事業を改革していく流れが主流でした。しかし、コロナ禍以降は、デジタル面でも顧客の行動をしっかり捉えていく必要性が強まったことで、「インサイトをどう得るのか」、「取得したインサイトをどう活かしていくか」という点に注目が集まるようになったと感じています。
ローゼンタール:消費者側からの企業への期待値はコロナ禍に関わらず実はあまり変わっていません。消費者は、企業に自身のことを一個人として認識してほしい一方、プライバシーもしっかり守ってほしいという期待感を持っています。だからこそ、その両面をカバーしつつ、顧客インサイトを捉え、事業に反映するための支援が求められているのです。これが、SAP Emarsysが目指す支援の形でもあります。
そして、近年もう一つのトレンドとして、「サステナビリティ」があります。若い世代は、企業が環境に配慮して事業を行うことを期待しており、重要な評価ポイントとなってきています。
日本市場の特徴はLINEを使った顧客との関係構築
MZ:コロナ禍をきっかけとして、日本もそのような世界のトレンドに意識が追いついてきた印象でしょうか。
阿部:日本においては、顧客との接点を設けることや、データを収集することは元々得意な傾向があり、取り組んでいる企業も多くありました。
ですが、そのデータを活用していく具体的な手段までは落とし込めていませんでした。データを活用してパーソナライゼーションを目指していく動きは、コロナ禍で確実に高まったと感じています。
MZ:世界と比較した際に、日本マーケットの特徴はありますか。
ローゼンタール:私の目から見て日本のマーケットで特に特徴的なのが「LINE」という独特なチャネルで顧客と関係構築を行う点になります。LINEは、最初からビジネスでの利用を意識して設計されているので、非常に使いやすい顧客接点のチャネルになっています。
一方、海外マーケットの多くでは、会話のチャネルが日本ほど成熟していません。世界最大級のメッセージサービスである「WhatsApp」もビジネスを意識した設計にはなっておらず、ビジネスAPIは後付けです。
阿部:LINEのように不特定多数ではない個人に対して直接企業がアプローチできるプラットフォームが、日本ほど国民間で普及している例は類を見ません。こうした環境があるため、顧客が期待するパーソナライズとプライバシーの保護の両面に見合ったコミュニケーションを実現できれば、そのインパクトは他国以上に大きいと考えています。
