手段先行のメディアプランニングはしない
──最初に、貴社のメディアプランニング戦略の方針をうかがえますか。
当社ではマーケティングを「生活者の認識変容を促し、ブランドを創り、増幅させる活動」と捉えています。「人の気持ちを動かす活動」と言い換えることもできるでしょう。生活者が情報を得る手段が変化し、メディアが多様化してもその大前提は変わりません。
メディアプランニングにおいては、手段の目的化に陥らないよう気を配っています。当社ではパーセプション・フロー・モデルを軸としたメディアプランニングツールを活用し、プランニングの際は人の認識変容を先に考えてから、認識を動かすための“知覚刺激”を次に考え、最後に接点としてのメディアを選定しているのです。「あの新しい媒体にトライしよう」「このメディアを強化しよう」という手段先行の考え方はしません。
人は四六時中そのブランドや商品のことを考えているわけではないため、「忙しい生活の中でいかに頭の中に入れてもらうか」「人の気持ちがどう動けばスムーズに購買へと至るのか」を重視しています。
──パーセプション・フロー・モデルに則り、消費者の行動・認知・知覚を理解した上で適切なメディアを選定していくわけですね。
もちろん、メディア選定の際には媒体ごとの特性も考慮します。たとえばテキスト中心のTwitterは、理性的に選ばれることが多いスキンケアアイテムの中身や効果を信用してもらう第三者コンテクストとして非常に有効です。一方、ルージュなどのポイントメイクアイテムを衝動的に「かわいい」「欲しい」と思ってもらいたい場合は、Instagramのフィードやリールを通じたビジュアルでの訴求が効果的と言えます。
ラーメンの海苔も立派なメディア!?
メディア選定時には「認知拡大はテレビやデジタル広告」「理解促進はSNSや口コミサイト」といった固定概念を外し、生活者の心が動くモーメントを起点に考える姿勢が大切です。たとえば「湯気や油で肌のベタつきが気になる」というモーメントを的確に捉え、人の心を動かすことができるのであれば、ラーメンの海苔も立派なメディアと言えますよね。
──直近のプランニング事例として、4月3日よりスタートした「みんな、いい顔してる。」キャンペーンを紹介いただきたいです。そもそもこのキャンペーンはどのような経緯で企画されたのでしょうか。
マスク着用義務の解除や新型コロナウイルス感染症の5類への移行などが発表され、社会が少しずつ新しい日常に向かおうとする兆しが見え始めました。しかしながら、三年間の様々な制約で身についた習慣や気分を即座に変えることは難しいものです。
社会の様子が変わるタイミングで、化粧の本来的な喜びや人と会う楽しさ、自分に自信を持つことでにじみ出る自分らしい「いい顔」を大事にしたいと考えました。美の力を通じて日本中がいい顔で溢れるように生活者の背中を後押しし、反応してくださる方々と一緒になって新しい社会のムードをつくりたい。そんな社会的な意義を源流にスタートしたのが「みんな、いい顔してる。」キャンペーンです。
──社会の空気を変える/ムードをつくる狙いがあったのですね。